掲載日 : [21-08-04] 照会数 : 3995
売掛金回収…仮差押えは周到に準備
Q
私は中小企業の経営者です。取引先からの支払が遅れたため、取引先との間で、今後の支払のスケジュールを確認しました。しかし、取引先からの支払は予定どおりになされず、最近では取引先の社長との連絡も取りづらくなっています。
取引先に対する売掛金を回収するためには、どうしたらよいでしょうか。
A
あなたの会社の取引先に対する売掛金を回収するためには、弁護士に相談して、以下の方法を取ることが多いと思われます。
◆まずは内容証明郵便
まずは、取引先に対して内容証明郵便により、支払期限を切って売掛金の支払を請求します。取引先が支払に応じれば、この段階で売掛金を回収することができます。
次に取引先が支払に応じない場合には売掛金の支払を求める訴訟を提起します。訴訟では売掛金債権が発生していることの証明や取引先の主張に対する反論などをすることになります。
裁判所が判決であなたの会社の請求を認め、取引先がこの判決に対して控訴をしなければ、判決が確定します。確定した判決に従って、取引先が支払をすれば、この段階で売掛金を回収することができます。それでも取引先が支払わない場合には、債権や不動産を差し押さえるなど強制執行をしなければなりません。
しかし、内容証明郵便を送付し、訴訟を提起して判決が確定するまでには、当然、時間がかかります。その間に取引先が資産を隠したり、費消したりすると、いざ強制執行をする時に、取引先に資産がないという事態が起きることも考えられます。それでは強制執行ができず、せっかく勝ち取った判決は、絵に描いた餅になってしまいます。
◆取引先の資産を確保
そこで、判決を勝ち取り、強制執行をする場合に備え、取引先が債権や不動産などの資産を隠匿したり費消したりできないように、その資産の現状を維持して、取引先の資産を確保しておく必要があります。そのために認められている方法が、「仮差押え」です。
仮差押えは、債務者に察知されないように速やかに行われなければ、債務者に資産を隠されるなどの準備をされてしまいます。このため、仮差押えをする場合には、内容証明郵便による請求をせずに、速やかに仮差押えをした上で、訴訟を提起することになります。
仮差押えは、あくまでも将来の強制執行を保全するための手段ですので、仮差押えによって直ちに債権回収ができるものではありません。
仮差押えが認められても、訴訟提起・判決・強制執行の手続が必要となりますし、仮差押えをしても、他の債権者に優先して支払を受ける権利が認められている訳ではありません。
また、取引先の金融機関に対する預金債権を仮差押えすることは、取引先の息の根を止めかねないため、他に不動産等の資産がある場合には、預金債権の差押えは認められません。
しかし、取引先が預金債権を差し押さえられた場合、取引銀行の信用を失うことを避けるため、直ちに全額の支払を申し入れてくることもあり、仮差押えの段階で、内容証明郵便、訴訟、強制執行の手続を経ることなく、債権全額を回収できることもあり得ます。
このように、仮差押えにより債権回収まで一気に実現できることもあります。ただ、仮差押えでは債務者に察知されないように手続を進めるに当たり、あなたの会社が取引先に売掛金債権を有していること、仮差押えをする必要性があることを裁判官に理解させられるだけの説得的な資料が必要となりますので、弁護士と準備をする必要があります。
弁護士 崔宗樹