掲載日 : [20-06-26] 照会数 : 5605
遺言のメリット…日本法での相続が可能に
Q
私は70歳の在日韓国人です。3人の子どもたちも独立し、私は妻と二人、悠々自適に暮らしています。そんな折、久しぶりに参加した同窓会で、「元気なうちに遺言をつくるべきか」との話題で盛り上がりました。
私たち家族は、自他ともに認める仲良し家族です。もし私の死後、遺産をめぐってトラブルになるとは思えませんが、それでも遺言をつくるメリットはあるのでしょうか? ちなみに借金はありません。
A
遺言が相続トラブルの防止に役立つことは、皆さまご存知だと思います。しかし在日韓国人の場合、それ以外にも大きなメリットが2つあります。
◆日本法への変更
ひとつは、相続について適用される法律を韓国法から日本法に変更できることです。
在日同胞社会も世代交代が進み、今では5世、6世も誕生しています。このように数世代にわたって日本で暮らしていることもあり、相続問題が生じた場合、日本法で処理されると考える方も少なくありません。しかし法律上、相続では「被相続人の本国法」が適用されます。つまり、韓国籍を持つ在日韓国人の場合、居住国の日本法ではなく国籍地である韓国法が適用されます。
この点、日本法と韓国法が同じ内容であれば、何ら問題ありません。しかし、配偶者の相続分や相続人の順位など、重要事項について異なる箇所が多々あります。
もし相談者が遺言のないまま死去された場合、遺産をどう分割するかを相続人間(妻と子たち)で協議することになります。ただしその際は、なじみの薄い韓国法で協議を進めます。そうすると思わぬミス(相続分の計算違いなど)が発生し、それがきっかけでトラブルになるおそれもあります。
しかし、「私の相続は日本法による」との遺言書を作成すれば、当該相続については日本法が適用され、相続人の負担を大きく減らすことができます。そのうえで遺産の分割方法(例‥自宅は妻に相続させる)についても遺言書に記載すれば、より一層のトラブル防止になるでしょう。
なお、遺言書の作成方式はいくつかあり、それぞれ法律上の規制があるので注意してください。
◆必要書類の省略
もうひとつのメリットは、遺言書を作成しておくと、相続手続(不動産の名義変更、預貯金の払戻など)にあたり、提出書類(相続人の家族関係証明書など)を省略できる場合が多いことです。
これは、相続人が多かったり、諸事情により韓国の身分登録簿の整理がしっかりできていないケースでは、大きなメリットとなります。必要書類は取扱機関ごとに異なるので、事前に各機関に問い合わせましょう。
◆まとめ
以上のとおり、在日韓国人の場合、日本法への変更および必要手続の省略というメリットがあり、個人的には遺言書の作成をお勧めします。
その際、専門家に相談するかどうかは、費用の問題もあるので一概にはいえません。ただ相続では、遺留分や相続税などの難しい問題もあるので、安心のための必要経費として、専門家に相談するのも合理的な選択肢になると思います。