掲載日 : [21-09-08] 照会数 : 8103
日本の公務員、韓国籍では…「権力的」公務員には制限
Q
わたしたち夫婦はともに韓国籍です。生まれてくる子どもは日本の公務員になれますか。
A
◆子どもの国籍
生まれてくるお子さんの国籍は日本と韓国の国籍法が関係します。たとえばドイツやフランスなら、生まれてくる子どもの親や、親の親(祖父母)などがその国(ドイツ、フランス)にどれくらい長く居住してきたか、なども考慮に入れます。
父母がドイツ国籍をともに持っていなくても(たとえば在独トルコ人)、その父母がドイツに長く居住してきたような人なら、その父母から生まれてくる赤ちゃんには、ドイツ国籍を認める、ということです。
なお、米国の場合は、両親が米国での在留資格がなくても(つまり、両親が「非正規滞在」者でも)、赤ちゃんが米国で生まれれば、赤ちゃんには米国国籍があります(出生地主義、生地主義)。
日本の国籍法は、生まれてくる子どもの親や、親の親(祖父母)などがどれくらい日本に長く居住してきたか、ということは考慮に入れていません。
基本的には、赤ちゃんが日本国籍を持つかは、赤ちゃんの父母が日本国籍を持っているかどうか(血統主義が基調)だけで決まりますから、あなた方の赤ちゃんには日本国籍はありません。
他方、韓国の国籍法も、赤ちゃんが韓国国籍を持つかを赤ちゃんの父母が韓国国籍を持っているかどうか(血統主義が基調)で決めますから、あなた方の赤ちゃんには韓国国籍があります。
◆参政権と公務就任権
日本は在日外国人に参政権(議員を選ぶ権利と、議員になる権利)を認めていません。公務就任権(日本で公務員になる権利)の問題は参政権の問題と共通する部分と異なる部分があります。
在日外国人は日本の権力を持つべきではない、という発想から、公務員のうち、権力を持つ公務員に外国人がなることを日本は禁じています。ここは共通しているところといえます。他方、公務就任権は、わたしたちやわたしたちの子どもがどんな仕事に就いて、どんな人生を送るか、という問題(職業選択の自由)に関して、参政権よりも、さらに広く、深く関係する問題といえます。
◆公務就任権の制限
日本の公務員には、国家公務員(中央政府の公務員)と、地方公務員(地方政府〓地方公共団体の公務員)とがあります。
現在、日本は、国家公務員については就任を広く禁止しています。地方公務員については、公務員を権力的な公務員と、そうでない公務員とに分け、後者に関しては在日外国人もなることが可能、として運用されています。
もっとも、どういう公務員が権力的で、どういうのが権力的でないかはあいまいです。ただ、日本側は、たとえば、日本の国公立の小、中、高校の校長や、副校長や、さらにはその下の「主任」の教員なども権力的だ、としていて、在日外国人が就任することを禁止しています。
他方、私立は公務員ではないですから、私立小中高では校長になれます。また、大学については、現在では、国公立でも学長になることができるようになっているので、国公立の小、中、高校だけを禁止しているのは理屈が整合していないように感じられます。
その他、警察官、検察官、裁判官になることは現在できません。消防士も権力的とされ、就職できないことがあります。また日本の裁判所は、裁判所での非常勤の仕事である、調停委員、司法委員に在日外国人がなることを禁止しています。人権相談をする仕事である、人権擁護委員もなれません。
特に、在日韓国人の場合、植民地時代から数えると100年以上、世代を超えて日本に居住してきているわけですが、そのような背景を考慮せず、一方で赤ちゃんの日本国籍を絞ったうえで、他方で日本国籍がない、ということだけを理由に公務員になる権利を広く制限している、という状況となっています。
◆複数国籍の赤ちゃん
在日韓国人の結婚は「国際結婚」のほうが多いのですが、たとえば夫が韓国国籍、妻が日本国籍の場合で、法律婚(婚姻届をした)のときには、赤ちゃんは韓国と日本の複数国籍です。
複数国籍の人には、日本の参政権や、公務就任権の制限は基本的にはありません。つまり、同じ在日韓国人でも、複数国籍の人と、韓国国籍だけの人とで、権利に大きな差があるのが実状です。もっとも、外交官の場合には制限があり、複数国籍者は日本の外交官になれない、とされています(外務公務員法7条)。
殷勇基(東京弁護士会)