掲載日 : [2016-06-08] 照会数 : 5822
市民力「対策法」動かす…川崎のヘイトデモ中止に
[ ヘイトデモに反対して道路に座り込む市民ら(5日、中原平和公園前) ] [ 反対市民に包囲されたヘイトデモ参加者
]
全国で初、範例なるか
ヘイトスピーチ対策法が施行されて最初の日曜日の5日、在日同胞らに対する排外主義的な言動を繰り返してきた団体が川崎市中原区で計画したデモは市民の反対行動によって阻止された。全国でも初めてだ。
この日、法務省は「ヘイトスピーチ許さない」との大きな電光掲示板を備えた車を出動させ、これまでカウンター側に対する規制に終始してきた警察が排外主義団体にデモ中止を促すなど、対策法の効果を評価する声も聞かれた。
だが、排外主義団体は言論・表現の自由を建前にした厚い壁に保護されている。民団はヘイトスピーチがより巧妙かつ陰湿化する可能性を注視、根絶に向けた行動をより緻密に展開する構えだ。
<民団>巧妙・陰湿化の可能性注視
根絶へより緻密な行動を
排外主義団体によるデモは、午前11時半から午後0時半まで、中原平和公園から武蔵小杉駅までの予定だった。主催側は1日、中原署に道路使用許可を申請、神奈川県公安委員会と県警は対策法が施行された3日、「要件を満たしている」として許可していた。
午前10時半ごろにデモ参加者が集まり始めると、その前から結集していた市民らが抗議の声をあげ、公園に近寄らせまいと参加者を包囲。そのうち100人ほどが道路に座り込んだ。デモ隊はほとんど進むことができないまま、県警の説得に応じる形で中止を決めた。警察当局によると、デモ参加者は約20人、中止を求めて集まった市民は約600人という。
このデモ主催団体は2013年5月から11回にわたり、川崎駅前などでヘイトデモを繰り返し、昨年11月と今年1月には同胞が集住する川崎区桜本地域を攻撃対象にした。同団体は当初、この川崎区の公園使用を申請したが、市は5月30日、対策法の趣旨を踏まえて不許可に。横浜地裁川崎支部も今月2日、「違法性は顕著で、もはや集会や表現の自由の保障の範囲外」として一定範囲内のデモ禁止を命じる仮処分を決定した。
同団体は集会・デモの計画変更を余儀なくされたうえ、許可地域でのデモも身動きできないまま中止に追い込まれたことになる。対策法を受けた関係機関の対応モデルになる可能性も出てきた。
だが、「公権力がデモの内容を事前に判断して禁止するのは表現の自由を侵す危険がある」との専門家らの声も根強い。川崎市の今回の不許可は、ヘイトデモを繰り返してきた団体主催者による申請に対しての判断だ。別の人物による申請であれば、不許可にするのは難しく、引き続き困難な選択を迫られるほかない。
排外主義団体は今後、日本の特定の政党や政治家、韓国がらみでは従軍慰安婦や独島領有の問題に対する「政治的主張」、あるいは北韓による日本人拉致事件、外国人一般による犯罪(不法滞在含む)糾弾などを前面に掲げて自治体や警察が抑止しにくい状況をつくり、そこに在日へのヘイトスピーチを紛れ込ませる可能性が指摘されている。
対策法の効果を見極めながらも、集会・デモなどで「平穏に生活する人格権に対する違法な侵害行為」が認められた場合、損害賠償や刑事罰を可能にする法的整備を求める声は強まりそうだ。
(2016.6.8 民団新聞)