掲載日 : [2016-06-08] 照会数 : 6497
<民団中央人権擁護委>実効性の付加追求…自治体へ働きかけ強化も
「対策法」成立受け
民団中央執行委員会所属の専門機関・人権擁護委員会(李根委員長)は、国会で「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」(ヘイトスピーチ対策法)が可決、成立(5月24日)したことを受け、ヘイトスピーチ根絶に向けた対策を各自治体に働きかけていくことを提起した。
5月26日に東京・港区の韓国中央会館で開いた第7回全体会議で意見交換し、各委員の見解が一致した。具体的には条例、教育、啓発がキーワードとなる。
冒頭、李委員長が「法が成立して、新たな制度が始まる。国会で成立した法律をバージョンアップしていこう。実効性のあるものに衣替えしてほしいと働きかけていく必要がある」と述べた。
法律が不十分なことは各委員ともすでに共通認識になっている。兵庫の委員は「条文そのものは40点のでき。衆参両院本会議で附帯決議が加わってようやく51点」と辛口の評価。在日韓国人法曹フォーラム所属の委員たちも「この法案に安住してはならない」と警告を発し、「理念法は行政と市民の懸け橋で、きっかけをつくるもの。これをもとに、さらにこうあるべきだと呼びかけていかなければならない」と強調した。
具体的には条例づくり、在日同胞に対する歴史認識の定立をめざした人権教育、一般市民への差別を許さない啓発の3点で一致した。
啓発では東京の委員から、各地の法務省人権擁護局との連携が大事だとして、定期懇談会的なものを要請してはどうかとの提起があり、各委員も賛同した。
当面のターゲットは実際にヘイトスピーチが行われていて「意見書」も可決している同胞多住自治体に絞り、「力を集中していく」ことになった。具体的には川崎市と東京都が最重点になるとの見通しを示した。大阪の委員は、地元の市議会で人権条例をつくるよう働きかけていることを明らかにした。
兵庫の委員は「法律の成立で地方自治体は対策をとらなければならなくなった。ひな形をつくって持っていこう」と呼びかけた。人権擁護委員会を所管する生活局は「9月議会に向けてのひな形づくり」を約束した。
ある委員は「2020年東京オリンピック開催に向けて世論の高まりがピークを迎えるだろう。これからが運動の出発点になる」と指摘した。
国は被害救済へ速やかに調査を
李根・人権擁護委員会委員長
ヘイトスピーチ根絶を願う人々の思いが結実し、その隊列にわれわれ委員会も加われたことを誇りに思う。何より被害に苦しむ同胞の安寧な生活が取り戻される一助になれば幸いだ。
しかし、なぜいつも被害者が絶望の苦しみの中から声を振り絞って「助けてください」と訴え、恐怖、中傷と闘わなければならないのか。今回の川崎のヘイトデモ禁止仮処分は、桜本に住む崔江以子さんらが声を上げ、幸いにも地域、メディア、市民団体の強固な結びつきで結果が出た。
施行をうけ、国には人知れず差別被害に苦しんでいる人々の被害救済のためさっそく調査を行い、聞き逃してはならない声に耳を傾けてほしい。法律の不完全さが見えるはずだ。
川崎支部の決定は法の不備を補う
李宇海・法曹フォーラム会長
「対策法」の不十分性は遺憾ではあるが、民団と日本人市民団体との連帯によって立法が成った経緯自体に反差別運動における歴史的意義があり、レイシストの敗北である。
横浜地裁川崎支部の決定は、ヘイトデモが近隣地域に居住する在日同胞の人格権を侵害する不法行為であり、憲法による表現の自由の保障外であると判示しており、その限りでヘイトデモの違法性を認定して解消法の不備を補う内容となっており、称賛に値する。
今後は、全てのヘイトスピーチを根絶させ、日本社会の人種差別・民族差別を解消する道を民団が開かねばならない。
(2016.6.8 民団新聞)