朴槿恵大統領と習近平国家主席による韓中首脳会談(3日)は、経済分野で大きな成果をあげた。韓中自由貿易協定(FTA)の年内妥結、ウォンと人民元の直接取引市場開設、相互投資の拡大などのほか、潜在的な対立要因となってきた西海の海上中間線画定に向けた交渉再開にも合意した。成長動力の確保に苦しむ韓国は、中国の米日に対抗する海洋進出戦略と一定の距離を置きながら、実利をしっかり獲得したいところだ。しかし、東アジア情勢は《政経分離》に徹し得る環境にあるとはいえず、韓国には期待と不安が相半ばする。
米中綱引き どうさばく
韓国が最も期待を寄せるのは、04年の交渉開始から10年で妥結のメドがたった韓中FTAの果実だ。中国は韓国の最大輸出先であり、昨年の比率は26・1%と全体の4分の1強を占め、米国11・1%、日本6・2%を合わせた規模を大きく上回る。FTAが発効すれば、韓国の実質国内総生産(GDP)は5年後に1〜1・3%、10年後に2・3〜3%程度伸び、雇用創出効果も絶大と分析されている。
もちろん、光には影がつきものだ。韓国は価格競争力の弱い農水産、繊維、玩具産業などで厳しい試練に直面するだけではない。鉄鋼、自動車など多くの製造業部門で中国の追撃がすさまじく、今後数年が韓国経済の命運がかかる試練の時期とされる。
勢いづく投資
韓国にはもう一つ、期待値の大きい合意があった。ウォンと人民元の直接取引市場を開設するとともに、中国の在ソウル銀行支店を人民元清算決済銀行に指定し、韓国に大規模な対中投資のできる人民元適格海外機関投資家の資格を付与したのがそうだ。
ソウルは中華圏の香港、台湾やシンガポール、ロンドン、パリ、フランクフルトとともに人民元域外ハブ都市になった。前年比で9割近く伸び、国別で日本を抜いた韓国の対中投資は、さらに勢いづく展望という。
だが、韓日中3国によるFTA交渉が滞るなかでの韓中の先行や、米日が排除されている人民元域外ハブにソウルが参入することは、ドルの覇権を揺さぶりかねない人民元の国際化に、韓国が加担するかのように映るのも負担だ。
韓国にとって目下の頭痛の種は、習主席が昨年10月に提唱した構想「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」と、中国が推進する東アジア地域包括的経済連携協定(RCEP)への対応だろう。文字通りの目的を持つにせよ、米日の封鎖戦略に対抗する海洋進出戦略から抽出されたものであることは疑いない。
中国は、アジア開発銀行(ADB)など米日の影響力が強い既存の国際金融機関と対抗し、アジア太平洋経済協力会議(APEC)でも影響力を強め、米主導の環太平洋経済連携協定(TPP)を牽制する狙いもある。韓国はRCEPとTPPがせめぎ合う狭間に位置している。
米中のさや当ては激しい。北京で9、10日に開かれた米中戦略・経済対話でも、米国側の「ADBが地域のインフラ投資や開発に重要な役割を果たしている。AIIBはいまだ存在せず、明らかに乗り越えねばならないバーがある」との批判に対し、中国側は、アジア共同繁栄のためのインフラ投資が目的であり、韓国をはじめ国際社会の参加を促していく、との立場を譲っていない。
米日に配慮も
習主席は韓中首脳会談で韓国にAIIBへの参加を求め、翌日のソウル大学での講演でもその趣旨を強調、「関連国が積極的に参加するよう希望する」と語った。朴大統領は米国の強い反対を考慮し、態度を保留している。
韓国は安保分野でも頭を抱えねばならない。韓米は終末高高度防衛(THAAD)ミサイルの配備を論議しており、米国はまた、ミサイル防衛(MD)システムへの加入を韓国に求めている。中国はMDを「北韓を刺激し、中国を狙うものだ」と反発してきた。習主席は韓中首脳会談で、MD問題に言及したという。
韓国は米国対中国、あるいは米日対中国という構図の中で、厳しい選択を迫られ、踏み絵を踏まされている格好だ。一方と近づいてはもう一方とその分だけ遠ざかることのない「ノン・ゼロサム」外交が求められている。
経済力をいっそう養いつつ北韓問題を解決し、韓半島統一を主導しなければならない韓国にとって、韓米同盟を堅固に維持しつつ中国との連携を深化させ、最大利益の追求を貫徹できるか、正念場にある。
(2014.7.16 民団新聞)