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皮肉込め対中非難
政府交流・原油輸入途絶え
「血盟」とも称された北韓と中国の関係は、容易に修復できない史上最悪のレベルに至ったと言われる。北韓を庇護する姿勢で一貫してきた中国が突き放しに出たとすれば、北韓にとって超弩級の圧迫となるはずだ。どう心得ておくべきか。
北韓の国防委員会は21日、この間の短距離弾道ミサイルの発射について「正々堂々とした自衛力の強化に向けた措置」と主張する談話を発表、その中で「一部の芯(主体性)のない国々も米国に盲従し、朴槿恵を抱え込もうと焦っている」などと非難した。「芯のない国」が中国を意味することは疑いない。
安保理に反発
国連安全保障理事会は17日、理事会議長の記者会見という形式で、15の安保理理事国の合意によって北韓の弾道ミサイル発射を「糾弾」し、安保理の関連決議を全面的に履行するよう北韓に要求した。安保理が「糾弾」という強い表現を用いるのは異例という。この合意に、中国が無条件で加わったことへの反発である。
北韓は習近平国家主席の訪韓に先立つ6月28日も、党機関紙「労働新聞」を通じて「核開発の放棄は永遠に実現することのない荒唐無稽な犬の夢」と言い放ち、「大国主義者たちの圧力も我々人民を屈服させられない」と見栄を切った。
北韓で「帝国主義者」は米国のことを指し、「大国主義者」は米国のほかロ・日を非難する際に用いてきた。今回は「者たち」と複数形にすることで中国を含め、しかも、かなりの皮肉を込めている。
「犬の夢」とは、習近平政権のスローガンである「中国の夢」をもじったものだ。ここで言う「大国主義者」も、自らの核心的利益を守るべく米国との「新たな大国関係」を追求し、それにふさわしい存在であることを示すために、北韓問題でも一定の国際的な責任を果たそうとする中国への嫌味と読み取れる。
関係悪化を示す材料は言説分野にとどまらない。両国は党・政・軍の高位幹部による相互訪問を頻繁に行ってきた。だが、昨年7月の平壌における韓国戦争の休戦協定締結60周年記念行事に、国家副主席が参席して以来、高官級会談も全面ストップしたままだ。
北・中友好協力相互援助条約の締結53周年だった11日も、双方は恒例だった親善メッセージの交換をしていない。平壌は昨年、「血盟」を強調した記事を複数メディアに掲載したほか、記念の宴会を催し祝賀ムードを演出していた。
中国の税関統計によれば、今年上半期の北韓への原油輸出は皆無で、地下送油管による税関を通さない無償供与が断続的に続いているに過ぎない。原油消費量の7、8割ほどを中国に依存している北韓にとって、公式輸入が6カ月間もないのは大きな打撃である。
あてつけ処刑
昨年2月(12日)の3回目核実験の強行によって中国はメンツをつぶされた。しかし、国際的な対北制裁に同調しながらも、庇護者としての姿勢は維持してきた。中国の態度がはっきり硬化したのは、北韓が昨年12月、党行政部長・国防委員会副委員長の要職にあった張成沢を粛清してからだ。張成沢は中国にとって、北韓を管理・誘導するテコとして欠かせない存在だった。
この張成沢に対して金正恩は、「国家財政管理体系を混乱に陥れ、国の貴重な資源を捨て値で売り払う売国行為を行った」との罪過をかぶせ、「断罪」場面をこれ見よがしに放映させるだけでなく、処刑も機関銃によるむごい手法をとった。張の粛清が「捨て値」で買った側、つまり中国への強烈なあてつけでもあったのは明らかだ。
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腰定まるか習政権
脱北者送還問題が試金石
北・中関係が過去最悪と言っても、中国は北韓を完全に見限ったわけではない。北韓が無条件の「血盟」に執着せざるを得ないのに対し、中国は北韓を過剰に庇うことで派生する内外のリスクを恐れ、国際的な協調を優先するスタンスにシフトしてきただけのことである。いわば端境期なのだ。
昨年2月、中国共産党中央党校の機関紙「学習時報」の副編集長が英紙「フィナンシャル・タイムズ」への寄稿(28日付)で、北韓の核兵器開発が中国にとっても脅威となることを認め、「中国は北韓を放棄し、韓半島の統一を推進しなければならない」と主張し、大きな話題になったことがある。同校は高級幹部養成機関であり、習近平総書記が前年まで校長を務めていた。
中国は習政権誕生までの数年間、「党中央外事工作指導小組」で論議を重ね、北韓に対する政策の見直しを進めてきた。この小組のトップは党総書記でもある習国家主席だ。英紙への寄稿論旨は、見直し作業における論議を反映したものとされる。
切り捨ては?
もちろんこれは、「切り捨て宣言」ではなく、北韓を特別扱いにはしない、場合によっては切り捨てるというメッセージととらえるべきだ。北韓にこれまで以上に厳しく、是々非々の姿勢で臨もうとする中国の基調は変わらないだろう。
中国も北韓に急変事態が発生する可能性を否定できず、韓国主導による統一を容認する姿勢に転じつつある。それでも、中国にとって韓半島問題での優先課題は、地続きの長い国境で接する北韓の体制安定にあるのは間違いない。それを平壌政権による核開発の放棄、中国型の改革開放によって担保したいはずだ。
中国から突き放された格好の北韓は、日本と拉致被害者を含む日本人問題のすべてを解決するための政府間協議を進め、制裁の一部解除を引き出した。ロシアとは金正日・プーチン会談14周年(19日)、合作による羅津港3号埠頭の竣工(6月)に際して両国の友好ぶりを大々的にアピールした。一方のロシアは5月、北韓に対する債権のうち100億㌦を帳消しにし、副首相や極東開発担当閣僚などを相次いで訪問させた。
北韓はロシアや日本との関係を孤立脱却の突破口にしようとしている。ロシアからはエネルギー支援が望め、日本との接近は経済的実利と韓米日3角共助体制の揺さぶり効果が期待できる。しかしそれでも、核開発が障害になることに変わりはない。4回目の核実験を強行すれば、日・ロに期待する突破口さえ未然に塞がれることになる。
進むも退くも
いずれにせよ、核兵器開発を放棄しない限り北韓包囲網に穴が開くことはない。そうかと言って、放棄すれば金正恩の統治力が深刻な打撃を受ける。進むも退くも地獄が待っている北韓は、時間稼ぎのためにも中国との関係改善を模索するほかない。今後の北・中関係を見通すうえで二つの点に注目したい。
一つは、「親中派」とも呼ばれる張成沢一派粛清の成り行きだ。「一派」とは言え、張成沢はいわば「ナンバー2」とも目されたほどの実力者であり、その勢力は権限益と経済益だけでなく、同志的な結びつきを持って北韓社会の隅々に根を張っていた。「一派」としてリストアップされたのは10万人を優に上回るという説もある。根こそぎ粛清は簡単ではない。
中国はこれ以上の関係悪化は避けつつ、北韓を管理・誘導するためにも張成沢に変わるパイプづくりを図るだろう。平壌政権はこれを奇貨に、対中人脈を復活させる可能性がある。もう一つは、中国当局が最近拘束した軍幹部の家族を含む脱北者29人の処遇だ。中国は北韓の要求に応じて強制送還するのか、それとも韓国入りを認めるのか。
前者はともかく、後者はごまかしが効かないだけに、当面の試金石となる。
(2014.7.30 民団新聞)