掲載日 : [2023-03-22] 照会数 : 1319
《特集》徴用問題 評価と懸念 「解決策」在日同胞識者の声
[ 政府は6日、徴用問題解決策を発表 ]
徴用問題で韓国政府が「解決策」を発表したことで、韓日関係改善への期待が高まっている。しかし、被害者と同じ痛みを共有する在日同胞としては割り切れない思いも残った。韓国政府の発表に対して日本側には寄り添う姿勢が感じられず、アンバランスだからだ。在日同胞識者の朴一さん(大阪市立大学名誉教授)は尹錫烈大統領の決断を「政治のリアリズムへの苦渋の転向」と一定の評価をした。一方、民団中央本部人権擁護委員会の薛幸夫副委員長は植民地主義の清算という重要課題が置き去りにされたことに強い懸念を示した。
尹大統領の苦渋の決断
朴一(大阪市立大学名誉教授)
徴用工問題で日本企業に命じられた賠償金を、韓国政府が設立した財団が肩代わりする。この解決案に抵抗を覚える韓国人は少なくないだろう。 なによりも賠償を肩代わりする財団への寄付に、被告の日本企業が参加していないため、原告側から「日本企業の賠償責任をなぜ韓国が弁済する必要があるのか」などという厳しい批判が韓国内から噴出している。韓国のKBSが実施した世論調査でも、韓国政府の解決策は「被害者の意見が反映されていない」という意見が6割を占めている。
しかしながら、こうした国内の批判を覚悟のうえで、徴用工問題に区切りをつけようとする尹大統領の政治判断に、私は司法の理想主義から政治のリアリズムへの苦渋の転向を感ずる。その理由は、原告の元徴用工の高齢化が進んでおり、時間をかけても、日本側の譲歩(日本企業の財団への寄付)に期待がもてないうえ、これ以上もめると、日米韓の安全保障や経済関係にも甚大な損害が生まれるからだ。
周知のように、ロシアによるウクライナ侵攻後、中国の台湾侵攻の可能性や、北朝鮮の核・ミサイルの脅威も高まっている。コロナ感染の後遺症と戦争の悪影響で世界不況が進む中、日韓が歴史問題で対立し、GSOMIA(日韓軍事情報包括保護協定)さえ正常に機能せず、互いに輸出規制を続けるのはよくない。そろそろ、徴用工問題にけりをつけ、新しい日韓の戦略的互恵関係を構築すべきである。
日韓首脳会談で、日韓が次の一歩に踏み出すことを期待したい。
未来志向で政治決着を
薛幸夫(民団中央人権擁護委員会副委員長)
地域間の民間による日韓交流を地元鳥取市と韓国側との縁で考えると、30年以上取り組んできた。重要な意義があったと思う。ポストコロナに向かい、これからもやるだろう。その文脈で言えば、この度の「徴用工問題」は評価すべきだろう。
しかし、未来志向という美名で重要課題がモラトリアム(執行猶予)先延ばしとなっていないか?
「完全かつ最終的に解決」されたと日本政府は言うが、足掛け15年も費やした日韓基本条約でうたわれているのは「1910年8月22日以前に大日本帝国と大韓帝国との間で締結されたすべての条約及び協定は、もはや無効である」と。つまり、植民地支配は1965年(韓国は1948年独立)以前は合法であったと言っている。不法・不当ゆえに3・1独立運動は起きたのではないか。
ヘイトクライムの多発、嫌韓本の流布、植民地責任と戦争責任は果たされず、その植民地主義の清算はなされていない。「新しい戦前」に至る前に「真の戦後」はあったのか!
(2023.3.22民団新聞)