掲載日 : [2022-03-16] 照会数 : 1934
【新刊紹介】『かけはし』 「慈しみの人」の実像に迫る
日本統治下の韓半島に渡り、山林の緑化や朝鮮白磁、木工芸の美しさや価値を世の中に伝えた実在の人物、浅川巧の生涯を描いた「創作評伝」。資料の丹念な読み込みと最近発掘の新事実をもとに「慈しみの人」の実像に迫る。
巧は質素な韓服を愛用し、自ら進んで韓国語を話すことで現地住民との心の垣根を超えた。バスに乗車中、差別と蔑視感情に満ちた日本人から「席を譲れ」と迫られてもあえて「自分は日本人だから」と抗弁しなかった。
不遇な人をみればいたたまれなくなりポケットにあったお金をすべて渡し、貧しく学校へ行けない子どもがいれば「奨学金」を与えた。だからこそ、その死を知った韓国人が大声をあげて嘆き悲み、顕彰碑まで建てたのだろう。本書はこうした事実を物語仕立てで丹念につむぎながら、人間味豊かな姿へと新たな命を吹き込んだ。
著者が児童文学作家だからだろうか。登場人物が生き生きと繊細に描かれているのも特筆に値する。本書に登場する日本人嫌いの代表格ともいえる「ソンジン」との付き合い方はその最たるもの。
税別1600円。新日本出版社(03・3423・8402)。
(2022.03.16 民団新聞)