掲載日 : [2016-12-07] 照会数 : 7925
ますます重要な記憶の場に…在日韓人歴史資料館記念シンポ
「何度きても発見ある」
在日韓人歴史資料館の存在意義および現状を踏まえ、あるべき将来像を探るシンポジウムが3日、東京・港区の韓国中央会館で開かれた(写真)。「在日を知る! 日本を知る! 世界を知る!」をテーマに、2005年の開館当初から同資料館が毎月第1土曜日に開催してきた「土曜セミナー」が12月に100回目を迎えたことを受け、開館11周年をも記念して企画した。博物館学の専門家、韓国近現代史や韓日関係史の研究者ら5人をパネリストに迎え、会場の参加者からも意見を聞いた。
収蔵・展示スペース拡大 課題
東京学芸大学教授で博物館を研究対象としている君塚仁彦さんは、基調講演の中で同資料館を「東北アジアの記憶の場」として位置づけ、「東アジアにとってきわめて重要な存在」とその意義を強調した。
「日本人から『異文化』とくくられる『在日』の歴史を、史実とそれを支えている『モノ』資料を示しながら、植民地支配による差別や抑圧の実態、植民地期および解放後の労働・生活・文化など総合的に把握し、展示している国内唯一の館。その学術的・社会的・教育的役割はますます重要になっていく」と述べた。
今後の課題としては、世界に発信していくための英語対応、限界に達している収蔵・展示スペーの拡大、中長期的には独立館への移転も検討するべきだろうと提言した。
パネリストの一人で千葉県佐倉の国立歴史民俗博物館館長の久留島浩さんは、「いつ来ても何度来ても発見がある。人を連れてきて紹介したい博物館の一つ」と資料館を評価した。
同博物館ではアイヌ、部落差別、関東大震災時の朝鮮人虐殺と無政府主義者に対する虐殺の展示もしている。「反日的、自虐的といわれるが、自分の祖先が悪いことをしても見せるのが愛国心だ。展示は教育と同じ。歴史の対話力を鍛えることが大事」と持論を述べた。
しかし、「負の歴史」に向き合いたくない日本人は少なくない。大阪市立大学大学院教授で資料館理事である朴一さんも授業で同様の経験を味わったという。朴さんは資料館が集客力を高めるために「アミューズメント」という装置の導入を提唱した。具体的には、日本の芸能・文化・スポーツ・経済の発展に大きく貢献した在日の芸能人、文学者、スポーツ選手、経済人の功績を年に1回程度、「特別展」と「特別講演」で紹介していくことをあげた。
歴史資料館のソウル特別展(12年)を、当時北東アジア財団理事長として推進した鄭在貞・ソウル市立大学教授は「韓国近現代史と在日同胞‐東アジアの観点からみた記憶の『現在』‐」と題して報告した。
最後の総合討論には基調講演・報告者5人に在外同胞財団から姜允模派遣駐在官が加わり、「在日韓人資料館のいま、そしてこれから」について討論した。司会は青山学院大学の宋連玉名誉教授が務めた。姜駐在官は、「資料館を在日博物館として発展させていくために財団として支援していく用意がある」と述べた。
在日韓人歴史資料館
民団中央本部が「在日」の記憶・歴史の継承を目的として「在日100年」にあたる2005年11月、韓国中央会館別館2・3階部分に開設した。延べ床面積は586平方㍍で、展示スペース3つと屋外テラスで構成している。
この11年間に有志600人以上から数千点の資料の寄贈を受けた。この結果、「もの」などの資料は開館当時の約480点から1500点以上に増えた。写真データは500から1000点以上、図書資料は3300冊から12000冊に、映像資料は250点から750点という充実ぶりをみせている。06年度から15年度までの見学者は累計32076人。
この間、大阪(08年)、名古屋(09年)、福岡(10年)に続き、ソウル(12年)で、それぞれ特別展を開催した。
(2016.12.7 民団新聞)