掲載日 : [2017-02-08] 照会数 : 5211
<韓国>各種支援制度と在日韓国人移住者<下>
欠落した歴史的視点
海外移住法の改正が急務
前回は、韓国政府が行っている外国人住民や国際結婚家庭に対する支援制度の内容、その支援から在日韓国人が除外されている実態、及び民団の要望活動などを整理した。今回はその続きとして、女性家族部をはじめとした各部の回答と今後に残された課題などをまとめてみる。
永住意志に固執
昨年12月に民団が提出した「大韓民国の各種支援制度からの在日韓国人除外実態是正要望」に対する女性家族部の回答はおおむね次の通りである。
「多文化家族支援対象から在日韓国人が除外されていたのは事実だが、2014年から多文化家族支援センター事業指針により、在外同胞もセンター(全国207カ所)で韓国語教育などの一部サービスを利用できるほか、健康家庭基本法により運営されている健康家庭支援センター(全国151カ所)で家族相談や父母教育、育児情報提供などのサービスが受けられるようになっている」
次に雇用労働部の回答はあらまし次の通りである。
「多文化支援に関連して現在、全国150カ所の『女性セロ・イルハギ(新しい仕事)センター』を通じて、結婚移民女性の就業を支援している。その中で、特に求職女性を対象とした集団相談プログラムを運営し、勤労意欲と求職能力の向上、及び職場斡旋などを行っている。在日韓国人にも同一のサービスを提供しており、必要に応じて近隣の多文化家族支援センターと連係した韓国語教育などを実施している」
両部とも一言でいうと在日韓国人もカバーしているとの答えである。
だが、韓国における在日韓国人の制度的な支援除外問題の解決に取り組んでいる弘益大学校の金雄基助教授はこれらの回答に対し、「では何故、周知が全くなされて来なかったのか」と指摘するとともに、「首都圏で実際に制度を利用している在日韓国人の事例を見たことがない」との疑問を呈した。
その上で「本当に韓国籍で日本に永住権を持つ在日韓国人の利用が可能なのか、一つひとつ確認をとる必要がある」と今後の課題を示唆した。
次に、特に焦点となっている保育料支援に関する保健福祉部の回答はおおむね次の通りである。
「国家の未来人的支援における投資として、また国家責任を強化するための一つの方法として、在外国民などが『子どもの家』を利用する場合の基本保育料は現在も支援している」
「但し、父母保育料に関しては、韓国に永住する意志が不明瞭な在外国民にまで拡大して支給するには、社会的合意が前提だと考えるところであり、慎重に決定しなければならない」
前半は別にしても後半を換言すると、「韓国に永住する意志がない者には支援しない」ということになり、それは、在日韓国人は日本の特別永住資格を放棄しなさいという、人権を無視したひどい話だと言えないだろうか。
人権侵害で係争
保育料支援からの除外に関しては、ある当事者が憲法裁判所に訴訟・係争中であり、一方で国家人権委員会は15年11月、平等権の侵害だとして是正勧告を出している。
金助教授は「全ての問題は韓国の制度設計において、在日韓国人という第三の存在が見えていなかったことと、在日が母国に定着するという想定がなかったという点に尽きる」と分析する。
いずれにしても、韓国への移住者に対する各種支援は国籍だけではなく、移住以前の生育環境なども考慮して判断するのが関連法の精神にのっとったことになるのではないか。
金助教授は韓国の海外移住法を一部改正することによって、全ての除外問題が解決する可能性があるとして同法の内容を精査しようとしている。
民団中央本部生活局では、今後とも金助教授と緊密に連絡を取り合いながら、問題の解決に向けて鋭意努力して行く方針である。なお、教育部からの正式回答はこの記事執筆の時点では届かなかったので、別の機会に報告したい。
(2017.2.8 民団新聞)