掲載日 : [2017-05-10] 照会数 : 11400
安定した韓日関係を…在日同胞の新大統領への期待
[ 韓国中央会館で投票する同胞 ]
韓国の第19代大統領に文在寅氏が当選した。本紙が投票を前に在日同胞から新大統領への期待の声を聞いたところ、誰が当選しようとも安定した韓日関係の維持を望んでいることがわかった。2国間関係が新時代に入るのか、関係改善の行方を見守っている。
金一男さん(73、神奈川・韓国現代史研究家、世界伝統詩人協会韓国本部海外総務)韓国での日本文化の解禁は1998年で、20年に満たない。両国の新しい関係作りは始まったばかり。対日関係は韓国国内の政争に利用されてきた側面があるが、隣国との友好的関係は国力の重要な一部。自尊心のために無駄に敵を作らず、積極的な関係改善を進めてほしい。
李根茁さん(63、民団宮城本部常任顧問)未曾有の国難に立ち向かう新大統領に望む事は何かと聞かれても、安全な日本に身を置く私には我々よりも国内国民和合のためにとしか言えない。声援を送るのみである。私に限れば在日の生活が本国に左右されることはほとんどない、あるとすれば心だ。自尊心や誇りは本国の有り様で多少影響される。穏やかな気持ちで見守りたい。
河鉄也さん(61、民団京都本部副団長)いま、東アジアで求められていることは、各国が協力し平和と経済的発展をさらに高めてゆくことだと思う。その中で欧米諸国に対等に力関係を示すためにも、韓国・日本・中国の3カ国が過去の歴史にこだわらず相互扶助の関係で協力し合わなければ、これからの世界経済を優位に推進することはできない。新大統領は日本との関係改善を最優先に考え、慰安婦問題等の歴史認識問題は英断をもって対処するべきだ。また、中国に偏らず対等に政治交渉を進め、東アジアを安定させるように中心的役割を果たしてほしい。
呉時宗さん(76、民団大阪本部権益擁護委員長)戦後72年、在日は大変多様化した。本国との懸け橋になり、日本で強く生きていくためにも、子どもたちへの民族教育が欠かせない。ルーツある在日の子どもたちの多く(90%以上)が日本の学校に通っている。関西地域を中心に長年、公立学校で取り組まれている民族学級がより深く拡大するよう韓国政府の効果的な支援をお願いしたい。
金昌鎮さん(72、東京・随筆家)日本に住んでいる同胞として今回の大統領選挙までの本国の政局を見ながらいろいろなことを考えた。外国に住んでいる私たちは本国の政治が安定し、経済が発展することをいちばん願っている。それは居住国の国民たちに対しても、次の世代に対しても、韓国人としての誇りが持てるようになると思うので、一日も早く安定した政治をして欲しい。
「教育革命」の在り方、再考を 李碩敏さん(20、東京・早稲田大学政治経済学部、在日韓国留学生連合会会長)
韓国は世界的にも圧倒的な教育熱で有名な国である。その分、すべての立候補者は教育革命を主張している。しかし、全員が同じことを覚え、誰がもっと詳しく覚えたかを確認するだけのシステムではこれからの第4次産業などへの対応は不可能だと思う。そのため一人ひとりに自分の将来を決める時間を与え、自ら考える力を持てるようにさせるのが教育革命の始まりではないのか。
在日の直言必要なときも 李修京教授(東京学芸大学)
第19代大統領選挙での在外有権者の75・3%という歴代最高の投票率は、国政壟断事件によって失墜された母国の品格を取り戻し、先進政治を行ってほしいという同胞たちの渇望の現れである。その切願から選ばれた新大統領は内外の民意や人権を重んじ、在外同胞の権益伸長に繋がる外交に尽力して世界に誇れる政治を行ってほしい。
韓国が先端IT・文化先進国として発展を遂げたのも〞亡国〟や〞貧困〟の痛みに負けなかった同胞たちの〞殺身成仁〟の精神による献身的支援があったからである。特に、韓日両国の政治に翻弄されながら忍苦の生活を堪え、母国の経済発展に貢献してきた在日同胞の功績は、教科書に記述して次世代に伝えるべきである。
また、韓・日・在日社会の〞トリプル文化〟を身につけた同胞たちの次世代教育にも積極的に取り組まなければならない。同胞出身の教員養成の制度整備や母国研修支援も必要だ。子どもから大人まで母国研修に負担なく参加できる基盤作りの支援策も課題である。
同胞たちの民族的アイデンティティー確立は大統領の先見性ある未来政策にかかっている。新大統領は韓日平和政策に基づく共存共生へのビジョンを早く示すべきだ。
共存共生のビジョン望む 金惠京准教授(日本大学)
「孤掌鳴らし難し」。中国の戦国時代に書かれた『韓非子』由来のことわざです。人は1人では何も成し遂げられないことを、片手では拍手が出来ない状況に例えたものですが、未来志向の韓日関係にも同様の認識が必要です。
外交において両国が協力し合うことは理想ながら、それが難しければ、多方面から働きかけて意固地になっている政治家たちを動かしていくことも求められるのです。今回の大統領選の候補者は皆が日本、特に2015年の慰安婦合意に厳しい姿勢を見せており、関係者は新大統領就任後、両国間で起きる事態を懸念しています。
そうした中で、民団中央本部の呉公太団長が年頭に「慰安婦合意の堅持と共に、韓日関係悪化の被害を最も受けるのは在日である」と発言したことは、両国に強い印象を残しました。それは在日韓国人という韓日双方の思いを知り、誠意をもって直言を行う存在が今後の2国間関係において、いかに重要かを示すものでもありました。
もし、新大統領が予想通りに日本へ厳しい反応を見せたならば、韓日の間に立つ民団や我々一人ひとりが友好の拍手の音を響かせるべく声を上げなければなりません。そして、その声に新大統領が耳を傾けた時、韓日関係は新時代を迎えるはずです。
(2017.5.10 民団新聞)