掲載日 : [2016-10-12] 照会数 : 12131
手軽に作ってほしい「参鶏湯キット」…父の闘病を支えてくれた味
[ 参鶏湯キットを手に ]
在日3世 井口佐矢香さん
韓国薬膳料理のひとつである参鶏湯のキット(3〜4人分)を4月から販売している「博淑屋」代表の井口(鄭)佐矢香さん(35、名古屋市)。参鶏湯に最も合う塩と言われる全羅南道の天日塩をはじめ、高麗人参、ナツメ、クコの実から栗まで韓方材料は全て韓国産を使っている。作る人が用意するのは手羽元600グラムだけ。釜山から嫁いできた母親の味をベースにしたこの商品には、一昨年亡くなった、在日2世の父への思いが込められている。
仕事場としている実家で梱包作業を担うのは、母親と弟の嫁、そして近所のおばさんだ。井口さんは「内職みたい」と笑う。パッケージには、塩、緑豆ともち米(日本産)、韓方の材料に分けた小袋3つと説明書が入っている。
日本では、レトルトの参鶏湯の味に慣れた方も多いと思うが、「博淑屋」の参鶏湯は塩だけで味付けをする。「工程はいくらでも増やすことはできるけど、手軽さにこだわった」
井口さんの母親が作る家庭料理は韓国料理。なかでも「参鶏湯は毎日食べても飽きないくらい好き」。それは父親も同じだった。
両親は井口さんが中学生のときに離婚。父親とは13歳から10年間会わなかった。23歳のとき、従兄弟から父親の余命が3カ月だという知らせを受ける。
病名は肺がん。井口さんは、再婚せずにひとり暮らしだった父親の身の回りの世話をすることに。体力も気力も落ち、食欲不振になっていた父親が求めたのは参鶏湯だった。
母親に事情を説明すると全面的に協力してくれた。レシピを聞いて作った参鶏湯を父親は「嬉しそうにぺろっと食べた」。以来、月に数回、参鶏湯を届けた。
3カ月と余命宣告された父親は、それから7年11カ月生きた。「本人の気持ちの強さとか、治療の効果とか色々あったと思うけど、私は参鶏湯がすごく効いたと思っている。間近で見てきて、確信を持って言える」
井口さんは3歳のとき日本に帰化した。教育も全て日本のものだ。「韓国の先人が大事に受け継いできた参鶏湯という食べ物を、私が売り出していいのか自問自答した」
韓国や在日の方たちに認めてもらえるようにならないとだめだと痛感、商品化するまでの2年間は韓国に行って韓方の産地をまわったり、いろいろな人に会って参鶏湯の作り方を教わった。キットに入っている材料は、井口さんが一つひとつ吟味しながら選んだものだ。
「いいものだと全力で言えるような物を作らないと結局、自分が苦しくなるので最高の物を選んだ」
屋号の「博淑屋」は、両親の名前の一文字をとってつけた。父親が生きた証を残したかったという思いからだ。
父親に参鶏湯を一生懸命作ったのは、「自分が後悔したくなかったから。でもお父さんが喜んでくれたのが一番嬉しい。この商品は、そのときと同じ気持ちで作っている」
今後は、健康・美容・韓国をキーワードに家庭でできる手作りキットのラインナップを増やしていきたいと張り切っている。
参鶏湯キットは小売り価格800円(税別)。
3個、5個セットのほか、全羅南道の塩や参鶏湯ギフトキットなども用意している。詳細は「博淑屋」ホームページ(http://www.samgyetang.style/)。
(2016.10.12 民団新聞)