掲載日 : [2016-01-01] 照会数 : 5275
〞人権侵犯〟初の勧告…在日朝鮮人へのヘイトスピーチに
法務省人権擁護局
法務省人権擁護局は12月22日、東京・小平の朝鮮大学校前で在日朝鮮人を脅迫する言動を行ったことは人権侵犯にあたるとして、右派系グループ「在持会」の元代表らに「自己と異なる民族などと共生することの重要性を理解するよう」諭し、同様の行為を行わないよう勧告した。
法務省は、こうした事例で勧告を行うのは初めてだと話している。
法務省と東京法務局の調べによれば、元代表らは08年から11年にかけて3回にわたり、朝鮮大学校前に押しかけ、「我々は朝鮮人を殺しに来たんです」「犯罪朝鮮人を全員す巻きにして東京湾にたたきこめ」といった怒号をあびせるなど、当事者の生命、身体に危害を加えかねない気勢を示したという。
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<解説>問われる国の対応…被害者救済へ法整備を
師岡康子弁護士
法務省人権擁護局がはじめてレイシスト団体のヘイトスピーチに対して違法かつ人間の尊厳を傷つける人権侵害であり、「今後決して同様の行為を行うことのないよう、勧告」した。
レイシストのいいわけである「表現の自由」「政治活動」が通用せず、京都朝鮮学校襲撃事件判決に引き続き、彼らの活動が違法行為であることを法務省が確認したことは、レイシスト集団及びその活動にとって打撃となるだろう。
他方、人権擁護制度自体の限界であるが、「勧告」には強制力がない。
レイシスト集団が今後も「反省」せず、「同様の行為を行」なった場合に、今回の勧告が示しているように、ヘイトスピーチは、人間の尊厳を傷つけ、強い恐怖感,苦痛を与える違法なものであるから、法務省‐国が放置することは許されない。
今後の国の対応が問われることになるだろう。
今回は、特定の集団に対するものであったため、人権擁護行政が対応しえたが、不特定の集団に対するヘイトスピーチの場合、違法でなく、人権侵害となりえないというのが現在の法制度の最大の欠陥である。
人間の尊厳を傷つけ、強い恐怖感、苦痛を与えるのは不特定の集団に対する場合も同様で、かつ、より悪影響が大きいものであり、法整備は急務である。
また、人種差別撤廃基本法がないため、今回も、現行法に照らして違法かどうかの判断に留まり、人種差別かどうかの判断がなされたわけではない。
行政が明確に人種差別撤廃の責務を負うこと、被害者救済の立場に立つことを明らかにする法整備が求められる。
法務省人権擁護局がレイシスト団体のヘイトスピーチに対し、明確に批判する態度を表明したことは人種差別撤廃委員会の勧告にも沿うもので、評価しうる。ただ、被害者の申請に対応するのみならず、現在も毎週行われている差別デモの現場に行って調査を行ったり、「在日特権」などの彼らの主張がデマであることをサイト上で事実をもって説明するなど、積極的に差別をなくす取り組みを行うべきだ。
法務省は他方で、在日外国人に対する差別を促進する、インターネット上で匿名で不法滞在と思われる外国人を通報する制度を設けている。差別撤廃のためには、自らが行っている差別を促進する政策を改めるべきだ。
(2016.1.1 民団新聞)