掲載日 : [2022-11-23] 照会数 : 2117
方政雄さんの「草むらの小屋」 さきがけ文学賞「入選」
在日の悲しみと喜び描く
方政雄さん
【秋田】1960年代の同胞集落を舞台に底辺で生きる在日韓国人の悲しみと喜びを描いた方政雄さん(71、兵庫県伊丹市)の小説「草むらの小屋」が第39回さきがけ文学賞最高賞の「入選」に選ばれた。
舞台は方さんが育った神戸市。主人公の少年昭男とその家族のもとに身を寄せた薬物中毒でヤクザ崩れの叔父・源鉄との関係を通し、貧困と差別の中で必死に生きる人々の姿を描いた。特に老年となった昭男が朽ち果てた集落を訪れる最後のシーンはそこはかとない無常さが漂う。
選考委員の諸田玲子さんは「読むのがつらくなるほどの物語だが、そういった人間の現実を書いた勇気が素晴らしい。救いがない展開の中で、キラキラと輝く場面が引き立つ」と講評した。
方さんも河川敷のバラック小屋が建つ集落で育った、作品には自身の実体験が反映されている。大学を出て電気工事の仕事をしていた30代半ば「朝鮮語」を正課としていた兵庫県立湊川高校から要請を受け、金時鐘さんの後任として教壇に立った。
小説を書き始めたのは高校を63歳で退職してから。その後は大阪文学学校(大阪市)で小説執筆の基礎を学んだ。今作は5年がかり。
授賞式は14日、秋田市内のホテルで行われた。方さんには公益財団法人「さきがけ文学賞渡辺喜恵子基金」の佐川博之理事長(秋田魁新報社社長)から正賞のブロンズ像と副賞50万円が贈られた。
同賞は1984年の創設。地域文化振興と新人作家発掘を目的としている。今回は県内外から227編の応募があった。
(2022.11.23 民団新聞)