「民族破壊」許さず
平和・統一へ意思堅固に
21世紀に入って最初の10年が過ぎ、新たな10年のスタートとなる辛卯年を迎えました。
親愛なる団員の皆さんとすべての在日同胞の皆さんに対し、謹んで新春のごあいさつを申し上げます。
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南北の明暗際立つ
昨年は、日本による韓国強制併合から100年であると同時に、そのくびきから解放されて65年に当たる年でした。そして、韓半島南北の統一よりも困難とされた東西ドイツが統一して20年の年でもありました。
人類社会はこの間、20世紀の遺物というべき植民地支配や東西冷戦がもたらした桎梏や残滓を取り除き、国と国、民族と民族の葛藤を超え、平和・環境・食糧など地球規模の課題に取り組む流れを強めてきました。植民地支配と国土分断という苛烈な歴史と現実をもつわが民族こそ、その恩恵に浴すべきです。
しかし、わが民族は昨年、平和追求の南に対するに戦争固執の北という構図を際立たせ、人類の歴史を過去に巻き戻すかのような事態に直面しました。
世界金融不況をいち早く克服した韓国は、EU(欧州連合)、米国などを対象にFTA(自由貿易協定)戦略を加速させ、世界第7位の輸出国に躍り出るとともに、1人当たり国内総生産を再び2万㌦台にのせました。11月には国際経済をリードする最重要機関であるG20(主要20カ国・地域)首脳会議を開き、グローバル金融安全網の強化と開発格差の解消に向けた道筋を示すなど、その成功によって称賛を浴びました。
韓国が世界で初めて「援助される国」から「援助する国」となり、多くの新興国から開発モデルとして仰ぎ見られる存在になったのは、過去の苦しみを産業化と民主化へのエネルギーに変え、さらには人類社会の共生・発展を追求する理念に昇華させてきたからです。
一方の北韓は、戦争による民族破滅もいとわないとする恫喝を繰り返し、軍事挑発によってその可能性を見せつけながら、いわゆる《狂人効果》にすがる醜態をあらわにしました。
3月には韓国兵士46人を犠牲にする天安艦撃沈事件を起こし、それでも足りずに11月には延坪島に戦時でも許されない無差別砲撃を加え、民間人を含む4人を死に至らしめ、島民の生活基盤を破壊しました。北韓独裁は、韓国が築いた統一国家をも担保する民族的な成果を台無しにすることさえ辞さない破壊者となっているのです。
親愛なる団員の皆さん。そして、すべての在日同胞の皆さん。
私たちは、統一を叫ぶものが必ずしも《統一勢力》ではないことをよく知っています。北韓独裁とそれに追従する勢力の反民族、反統一の本質を直視すべきです。統一勢力の力量は、先軍政治と核兵器の破棄に、さらには北韓独裁の無力化に向かわねばなりません。
ソウルで開催した民団拡大幹部会議の参加者は、11・23延坪島砲撃事件の翌日、危機をものともせずに結集し、内外国民が一体となって北韓独裁に立ち向かうことを決議するとともに、総連傘下の同胞にも決起を呼びかけました。私は、全国民団幹部の決然とした姿勢を背に受け、この決議を組織の先頭に立って実践します。
親愛なる団員の皆さん。
中央本部団長として私に残された任期は、1年と2カ月になりました。険しい韓半島情勢と自身に与えられた使命に照らし、集中すべき二つの課題があることを肝に銘じています。
一つは、2012年とそこに向かう過程で予見されるいかなる激動にも、民団が的確に対応できるよう体制を整えることです。もう一つは、組織の活性化と本年10月の創団65周年を記念する諸事業の成功を結びつけ、民団の存在感を内外で高めることです。
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「2012年」に対応
2012年は韓国で、激しい闘いが懸念される国会議員総選挙(4月)と大統領選挙(12月)があります。この2大選挙に臨んで韓国社会が政治的な葛藤を過剰に増幅させ、同年を「強盛大国」完成年と喧伝し、崩壊の危機にある体制の引き締めに血眼の北韓に、付け入るスキを与えかねません。
私たちは2012年を頂点に、南北の緊張関係が最高度に達する可能性を今から覚悟しておくべきです。そのような状況下で、在日同胞の多くが在外国民として、韓国の将来に大きな影響を与える2大国政選挙で初めて選挙権を行使するのです。
私たちに与えられた選挙権は決して、軽いものではありません。韓国に一定の影響を与えるだけでなく、同胞たちの価値観を変え、在日社会に質的な転換をもたらす可能性も念頭におくべきでしょう。
民団はこの間、「2012年問題」に能動的に対処すべく、多様な角度から研究をすすめてきました。今年はその成果を土台として、なるべく速やかに、選挙権を行使する在外国民にふさわしい自覚を育み、それを如何なく発揮しても、在日同胞としての連帯感を損なうことのない体制を築いていきます。
親愛なる団員の皆さん。
在日同胞を代表する民団は重く厳しい課題を託されています。ですが、それにかまけて日常の基本事業をおろそかにはできません。その努力のなかでこそ、歴史的な使命に応える力を蓄積できるからです。
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意義深い創団65周年
65周年事業は、民団の足跡を再照明し、草創期から今日まで組織の発展に貢献した先輩諸氏の功績を改めて顕彰するとともに、展望を切り開く知恵と力を結集するものであるべきです。次代を担う若い世代に、団員であることの誇りとやりがいを感じさせるものでありたいと考えています。
強い組織であるためには、人材・財政・情報が豊かでなければなりません。民団は団費納入世帯の減少が如実に示すように、人員と財政の両面で厳しい運営を迫られています。しかし、逆境はたびたび民団の底力を目覚めさせてきました。
私たちは門戸を広げ、多様な同胞たちを民団理念のもとに迎え入れるべきです。「ニューカマー」と呼ばれる韓国からの新規定住者は、民団との距離を縮めてきました。20年、30年と日本社会に根を張り、その2世たちが大学生となり社会人となって、かつての私たちと同じ問題を抱えています。民団から疎遠になった同胞や、総連から離脱して行き場のない同胞たちも大胆に組織化しましょう。
財政問題については率直に言って、年毎の基本財源確保に腐心するあまり、長期的な展望にたった基盤づくりには成功していません。私自身、忸怩たる思いです。少なくとも、財政健全化をさらに推進するほか、次世代育成を支援する基金の造成にめどをつけるつもりです。
全国の民団が結束するためには、情報の共有を徹底して目的意識を統一し、あわせて帰属意識を培うことが肝要です。65年に及ぶ民団の誇りある歴史は、団員たちの自意識を高めずにはおかないでしょう。これと並行して「2012年問題」に対する研修を一般団員にまで徹底し、問題意識を深めていきます。
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「参政権」粘り強く
親愛なる団員の皆さん。
私たちの立場を強化するためには、祖国・韓国との紐帯強化はもちろん、日本社会との関係を安定・発展させることが欠かせません。
韓国強制併合から100年の昨年は、両国関係史を整理し、現在を確認しようとする試みが相次ぎました。しかし、懸念されていた歴史認識をめぐる葛藤が再燃することはなく、むしろ未来志向の思潮が盛り上がりました。経済は言うまでもなく文化・スポーツ、地方自治体や市民間の交流が深化し、政治的な連携も強まりました。懸け橋の役割を担う私たちは率先して、こうした共生の流れを確固としたものにするでしょう。
合わせて、私たちの宿願である永住外国人への地方参政権獲得を粘り強く展開していきます。一部勢力の理不尽な反対運動と日本の政局の長引く混迷によって、足踏みを余儀なくされながらも、主要政党や有力政治人に直接働きかけてきたほか、支持世論を喚起する運動を怠りませんでした。不退転の決意は不変です。
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次世代育成を加速
親愛なる団員の皆さん。
多くの幹部が民団のあり方を真剣に考え、将来が不透明で不安定であればあるほど、信頼できる仲間が必要であり、それ以上に、後代を託せる人材群が欠かせないことを痛感しています。全国の民団が制約された人的・財政的資源を有効に活用する意識を研ぎ澄まし、次世代育成に集約させようとする方向が明確になっているのはその現われです。
民団は昨年、450余人が参加したオリニジャンボリーを成功させ、次世代育成を着実に進めました。青年会のない地区の青年を中心に100人がソウルに集い、空白地区をなくす決意を確認したのをはじめ、青年会本部の再建や再建準備に拍車をかけました。また、約10年ぶりに母国修学生会を再建し、88ソウル五輪に貢献した民団への恩返しとして修学生への奨学金制度が発足しました。韓国国体においては在日同胞選手団が海外同胞の部で4年ぶりの総合優勝を果たし、体育会で「スポーツ基金」構想が動き出したことと合わせて、青少年育成に大きな励みとなっています。
ジャンボリーを中心とした民団の各種オリニ事業から、たくさんの青年リーダーが育ち、民団事業に積極的に協力するまでになりました。オリニから中学・高校生、学生会・青年会とつなぐ体系的な次世代育成システムが形成されつつあります。これを加速させ、定着させていきましょう。
親愛なる団員の皆さん。
民団は、在日社会唯一の求心体であり続けねばなりません。個々には不備があり脆弱性があるとしても、全国規模の結束によってそれを補い、使命に応える能力を持っています。組織活性化と創団65周年事業の成功を連動させるとともに、「2012年問題」に果敢に対処する体制を確立し、新たな時代に向かって飛躍する民団を準備しましょう。
本年が団員ならびに同胞皆さんにとって、希望と充実感に満ちた1年となることを祈念します。
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【解説】「2012年問題」とは
従北勢力の策動封鎖期す
【解説】「2012年問題」とは、「南北の緊張関係が最高度に達する可能性」(新年辞)など、韓半島と関連諸大国の動向や駆け引きが先鋭化する事態が想定されるその年に、団員の多くが在外国民として初めて、国会議員総選挙(4月)と大統領選挙(12月)で選挙権を行使する重要性を強く意識して設定されたものだ。
2012年には、韓国の同盟国である米国の大統領選挙、北韓と「血盟関係」にある中国の共産党第5世代指導者の選出、東アジアで存在感の底上げをめざすロシアの大統領選挙がある。韓半島に影響をもたらす諸大国の政治的な変動と、その相互関連が注目される。
それ以上に鋭意注視すべきは、せめぎ合いがいっそう激しくなると予想される韓半島南北の動きだ。平和を生命線とする貿易立国の韓国に対し、自国民衆の最低限の人権や生命さえ踏みにじり、韓国の破壊者として振る舞う北韓独裁の体質は変わる兆しが見えない。
改革開放を忌避して3代世襲を進める北韓は、自ら体制崩壊に突き進んでおり、それ自体が大量殺戮兵器の開発に劣らないほどの脅威となってもいる。「金日成100年」「金正日70年」に当たる2012年を「強盛大国」完成年と喧伝しながら、体制引き締めのためにこれまで以上に卑劣な対韓策動に打って出る危険性は強い。平和攻勢を見せても一時的なジェスチャーにとどまろう。
過去2回の大統領選挙が示したように、北韓に対する政策を主な争点に含めながら、12年の2大国政選挙で韓国社会は政治的な葛藤を過剰に増幅させかねない。そこに、北韓独裁が直接的な軍事挑発に加え、韓国内外の北韓従属勢力をも動員した情報・心理戦によって揺さぶりをかけてくるのは明らかだ。民団もターゲットになる。
新年辞は、「2012年問題」が1年以上先のことに見えながら、実際は今年から激しく動き出すとの認識の下に、対応準備を年内に終えようとする強い決意の表明と言える。
準備の一つに例えば、朝鮮籍から韓国籍に切り替えて韓国の旅券を所持し、韓国国政選挙への選挙権を有しながら、総連活動に従事する同胞が相当数にのぼっている実態を見極め、総連から心身ともに離脱した同胞と峻別して対処することも含まれよう。
祖国統一は、韓半島に生きる人々の安全と繁栄はもちろん、750万人と言われる在外同胞の安寧を、さらには東アジアの恒久的平和と発展を保障するために、絶対に避けてとおれないわが民族の歴史的使命だ。鄭団長は、統一勢力の力量は先軍政治と核兵器の破棄、北韓独裁そのものの無力化に集中されるべきだと強調した。
この闘いは日本地域で、総連など北韓独裁に無条件で従属する団体から同胞を離反させ、その指導部をさらに孤立させることに向かう。総連同胞が独裁追従をやめ、民族的な大義と人類普遍の価値観にたって、民団と手を携え民族の大業に参与する道を開く決意の表明だ。
(2011.1.1 民団新聞)