掲載日 : [2016-09-28] 照会数 : 4897
<横浜市教委中学副読本>同胞虐殺に触れず…後退続く関東大震災記述
【神奈川】横浜市教育委員会が作成中の中学生向け副読本から、関東大震災時の「朝鮮・中国人虐殺」の記述が消えようとしている。二つの市民団体関係者が情報公開請求で6月末時点の原稿案を入手し、確認した。両団体は「横浜で多数の朝鮮人・中国人の虐殺があったことはすでに実証された定説」として、虐殺の事実およびその背景を掲載するよう求めている。
「実証済みの定説」
市民団体 事実掲載求める
市教委が年内に市立中学1、2年生全員に配布をめざして作成中の新副読本は『ヨコハマ エクスプレス』(仮称)。子どもたちの学びのきっかけをつくろうと指導主事が執筆している。両市民団体が関東大震災の項目を見たところ、「開港60年の繁栄は、一瞬にして灰となってしまいました」と簡単に紹介しただけ。具体的な死者数や災害状況、虐殺の事実には触れていない。
「歴史を学ぶ市民の会・神奈川」(代表・北宏一朗)は12日、市教委に提出した「要望書」のなかで、「災害時のデマによる悲惨な事件は決して過去のものではなく、外国人の多い横浜でもおこる」として、防災教育の面でも痛切な教訓とするよう求めた。
これに先立って歴史学者ら有志も9日、「災害時のデマによる被害を防ぐには歴史事実を教訓として学ぶ必要がある」と指摘した。
市教委の副読本は1971年から毎年、発行されている。2009〜11年度版の関東大震災時の記述を見ると、朝鮮人に対する迫害・虐殺は自警団のみによって引き起こされ、軍隊は自警団を取り締まるために派遣されたのだとする趣旨だった。
市民の一人がこれに異を唱え、軍隊や警察が迫害・虐殺に関わった主体だと主張。1年前から質問状を送るなど、再三にわたって記述の改訂を求めてきた。
この結果、12年度版『わかるヨコハマ』は執筆者の意向で、「軍隊や警察……自警団などは朝鮮人に対する迫害と殺害を行い、また中国人も殺傷した」と記述され、少年の日に朝鮮人虐殺を目撃した「一市民」が建立した「関東大震災殉難朝鮮人慰霊碑」の写真も再び掲載された。
ところが、12年7月、特殊な歴史認識を持つ一部の保守系市議が市議会で副読本の記述を取り上げ、「わが国の歴史認識や外交問題に極めて大きな影響を及ぼしかねない」と批判した。
市は12年度から育鵬社版『中学社会 新しい日本の歴史』を使っているだけに、山田巧教育長(当時)も「虐殺という言葉は非常に強い」と呼応。12年度版『わかるヨコハマ』を回収し、翌年の改訂で「軍隊、警察」の文言は削除され、「虐殺」は「殺害」と書き換えられた。
教育行政への政治介入はさらに続いた。昨年2月には別の市議が『わかるヨコハマ』が「ほとんど活用されていない」と批判したところ、岡田優子教育長が大幅な作り替えを約束。改訂中の副読本は同市議の提案を入れ、日本語と英語を表記した「グローバル人材育成」を意識したものになった。
歴史学者ら有志は要望書のなかで「関東大震災時の朝鮮人・中国人虐殺をなぜ削除するのか、削除するにあたって何を参考にしたのか」を質している。
これに対して市教委指導企画課は、「今回の副読本は子どもたちの学びのきっかけをつくるもので、いままでとはコンセプトがまったく違う。虐殺の史実を載せるか、載せないかは検討中の段階。はっきりとしたことは申し上げられない」としている。
10月22日に集い
「歴史を学ぶ市民の会・神奈川」も12年度版『わかるヨコハマ』の復活を求め10月22日14時から横浜市内のかながわ県民センター301号室で「副読本問題考える集い」を開く。資料代500円。
(2016.9.28 民団新聞)