年末年始、忙しい時期の気分転換に、あるいは知的好奇心を満たしたい方のために、ジャンルの違う6冊を紹介する。自叙伝、韓日史、韓日詩人による対詩など、お好きな本を手にしてほしい。
■□ 宿命の日韓二千年史…明暗の話題で関係史を概説
現在の韓国人のDNAを調査すると、約75%がバイカル湖付近に住む人たちのものと一致するという。遠い昔、シベリアの寒さから逃れ、温かい地を求めて南下した祖先は、列島が大陸とつながっていた時代には、日本にまで足を伸ばした。いにしえから韓日両国には、深い縁があることを改めて教えてくれる。
国境のない時代、列島と半島の人々は、自由に往来して、交流を重ねていた。それは生きるための自然な営みだった。ヘイトスピーチと嫌韓が氾濫する現代日本の状況からすると、何と平和に共存していたことか。
時代が下って4世紀、高句麗による強い圧迫に伽耶は武力で対抗せざるを得なかった。鉄の鎧や兜などの武具を持っていたが、人手がない。頼ったのが日本のヤマト政権だった。鉄と人手を得た双方は、協力して高句麗と戦った。
538年には、日本とより深い関係を結びたいと願った百済の王が、日本に仏教を伝えた。外来の神を受け入れることは、当時の政権を支える蘇我氏、物部氏の二大勢力を引き裂いたが、物部氏の失脚により仏教は定着することになる。政権の基盤を支えたのは渡来人だった。
善光寺と浅草寺が韓国と深く関わっている秘話や、両国で世界遺産化に動き出した朝鮮通信使など、興味がつきないトピックス満載だ。
康煕奉著
勉誠出版
(1700円+税)
03(5215)9021
■□ あなたは本当に「韓国」を知ってる!?…違いを認識して仲良しに
本国に留学し、「本物の韓国人」になろうと奮闘・努力してきた在日韓国人が書いた比較文化論だ。勤務経験のある中国という第三の視点も加え、相互の違いや葛藤を客観的に捉えた。それもすべて自らの体験に裏打ちされているから説得力を持つ。読者は「ああ、そうだったのか」と思わずうなずくことだろう。
たとえば「こちらの心遣いを感謝してくれない」。日本人ばかりか、筆者さえも一度は「アレッ」と思った経験だ。しかし、これも単なる偏見にすぎない。韓国では親しい間柄で「ありがとう! お世話になりました」とは言わない。「他人行儀で一体化していない」と思うからだ。 韓日の間では似ているが故に、安心して自分の考えや慣習のまま相手に対する。これが落とし穴になり、感情をこじらせる。このような事態にならないためには、お互いの違いを認識して、誤解の芽をつぶしていかなければならないと筆者は警告する。
とかく「曖昧」な空気が支配し「済んだことを今更騒ぎ立てても建設的でない」とする日本と、有能な大統領でさえ過去にさかのぼってでも糺すなど、けじめをつけたがる韓国。両国間の関係を疎外している歴史問題では、「『謝罪』は何回行ったかが重要ではなく、相手が心から受け入れて成立するものではないでしょうか」と指摘している。
権鎔大著
駿河台出版社
(1600円+税)
03(3291)1676
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わたしが生きてきた世の中…激動の時代にも情熱捨てず
本書は、植民地時代から韓国戦争にかけての家族の歴史を綴った著者(英文学者)の前作『日帝時代、わが家は』(2003年刊、みすず書房)に続く自叙伝。
著者は1929年に旧満州の奉天(現・中国瀋陽)で、父羅景錫と母淑順の長女として生まれた。1945年8月15日、日本の降状を告げる昭和天皇の「玉音放送」は、衝撃的な出来事だった。12歳まで日本人の学校で学び、16歳で迎えた解放直前まで日本人だったという、「内なる二重性」を感じていた。
著者家族はソウルの新橋洞に暮らして75年になる。その間、数多くの政変も経験した。45年の8・15解放、50年の6・25韓国戦争、60年の4・19学生革命、61年の5・16軍事クーデター、そして79年の10・26朴正熙大統領暗殺事件などだ。
19年の3・1独立運動のときに独立宣言文1000枚を満州吉林の孫貞道牧師の元に運び、その帰り途に銃器10丁を密輸しようとして日警に捕まり、3カ月間拘禁されたり、解放直後、韓国民主党(韓民党)に入ったが、すぐに脱党した父にも焦点を当てる。
解放後、韓国の激動の歴史とともに歩んできた著者が持ち続けたのは、英文学と教育への情熱だ。幾多の困難を乗り超えながら、自分を見失うことなく生きた著者の姿を映し出す。
羅英均著
堀千穂子訳
言叢社(2600円+税)
03(3262)4827
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酔うために飲むのではないからマッコリはゆっくり味わう…韓日詩人 言葉に秘めた思い
韓国書籍を翻訳出版するクオンによる「日韓同時代の対話シリーズ」の第1弾。
登場するのは日本を代表する詩人、谷川俊太郎さん。そして、韓国「民衆詩」の時代をつくった国民的詩人、申庚林さん。
本書は未発表の2人の「対詩」24編(韓国語訳付)を初掲載のほか、東京と韓国・坡州(パジュ)での対談、谷川さんの「二十億光年の孤独」、申さんの「ラクダ」などの代表作10編、幼少期を綴ったエッセイが収録されている。
申さんは谷川さんより4歳下。韓国戦争直後、最初は抒情詩を書いていたが、当時の韓国は美しい詩を書いていられるような状況ではなかった。文学が人の役に立つのか。その後10年近く詩を書くことはなかった。
谷川さんが詩を書き始めたのは第2次世界大戦後だ。戦争中、子どもだった谷川さんが目にしたのは死体の数々。感じたことの10%も言葉では表現できないと感じた。詩を直接、役に立つというよりも、言葉の味わいを提供したいと考えている。
戦争を体験した2人はこれまで何を感じ、どのような思いを込めて詩を表現してきたのか。そして彼らが詩を通じて追求している言葉とは。広範なテーマにわたる対談やエッセイなどの作品の中に、その答えが散りばめられている。
谷川俊太郎・申庚林著
吉川凪訳
クオン(1500円+税)
03(5244)5426
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北朝鮮・絶対秘密文書…「犯罪」から社会変容に迫る
「外からは見えにくいが、じつは北朝鮮国内の情勢は急速に動いている」
著者(全国紙記者)は、2008年秋から13年春にかけての約4年間に朝中国境地帯や延辺朝鮮族自治州などを頻繁に訪ね、国境を越えてきた北住民たちと友人知人に、そして多くの北住民や北に出入りする朝鮮族などの貿易関係者らに対する取材を重ねた。
北の内部文書、特に国内宣伝用の文書の入手にも努めた。「絶対秘密」に指定された「検察幹部のための教養資料1」(中央検察所、2010年)はそのうちの一つだ。検察機関が捜査した記録などをまとめたもので、記されている具体的な犯罪事例は、金鉱山のヤミ採掘、放射性物質の密輸出、世界遺産地区での文化財窃盗など、非常にバラエティーに富んでいる。
「犯罪者」たちは、国家の思惑や監視もなんのその、実にたくましく、バイタリティにあふれている。「法の網をかいくぐる『起業家』」「放射性物質を売りさばく『職場離脱者』」「国家を食い潰す『内部犯行者』」など。
著者は、閉鎖国家の経済状況(「食糧難から発生した『疑似市場経済』」)、社会状況(「抑え切れない欲望と『サボタージュ社会』」)に言及し、北はすでに崩壊の過程にあると主張する。独自な視点から北社会の変容に迫ったもので興味深い。
米村耕一著
新潮社(780円+税)
03(3266)5430
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海慶打令…学びで克服した苦難の人生
波乱の人生を歩んだ在日2世、柳海慶さんの語る「身世打令」を題材にしたノンフィクションだ。
母、珠美は慶尚南道の陝川の寒村で生まれた。苦難の始まりは、貧しい農家に嫁がされた16歳から始まる。婚家からいじめを受け続け、最後には娘、順玉を連れ去られてしまう。釜山で職を得て、そこで出会った柳東夏との間に出来たのが海慶だ。仕事もせずに博打と喧嘩に明け暮れる東夏と別れた後、珠美は娘を連れて対馬、長崎、下関などの炭鉱、精錬所で調理の手伝いや雑用の仕事を続けた。
そして、15歳で結婚させられた海慶もまた、母同様の苦労を強いられる。「私の一生はつくづく不幸で、巡り会う男たちに無茶苦茶にされました」。男たちに裏切られ、翻弄されながらも耐えてきた。 3番目の夫と再婚した海慶は、死んだ前妻が残した4人の子どもたちを育てた。夫の放蕩も止まず、自らの体の衰えを感じたとき、一つの転機が訪れる。大阪・猪飼野で開かれていたオモニハッキョ(日本語識字学校)に通ったことだ。文字を学び、仲間たちとカラオケに通う。働きづめだった海慶が初めて手にした穏やかな時間だった。
海慶は母親から手渡された「戸籍謄本」を大事にしまっていた。それは父、そして故郷につながる唯一の証だったからだ。
柳海慶語り
韓我路編者
風来舎(1200円)
06(6488)2142
(2015.12.23 民団新聞)