掲載日 : [2016-09-07] 照会数 : 6064
朝鮮人虐殺の記憶集大成…西崎雅夫さん5年がかりの労作
[ 証言集を持つ西崎雅夫さん ]
1100の証言で追体験も
東京都内 地区別に整理
戒厳令下、流言飛語が行き交った東京でなにが起こっていたのか? 1100もの証言をもとに皮膚感覚で追体験できる貴重な資料集『関東大震災朝鮮人虐殺の記録』(西崎雅夫著、A5判512ページ)が刊行された。
資料集のもとになったのは、西崎さんが5年がかりで東京都内ほぼすべての公立図書館を回り、自伝・日記・郷土資料などから集めた関東大震災時の朝鮮人虐殺に関する証言。目撃した、あるいは流言飛語を聞いたという直接的な証言のうち、場所を特定できるもの、具体性が明らかなものを主に収録した。
これらは2011〜12年、3冊の手作り証言集として頒布されてきた。これら3冊の証言集を大幅に増補のうえ、ひとつにまとめた。出版にあたっては23区ごとに整理した。区ごとに地図も入ったことで、実際に虐殺の現場を巡ることも可能になった。
「投毒」、「朝鮮人襲撃」という流言飛語が、戒厳令をバックにした軍隊や警察によってもたらされたものであることを、実際の証言を通して浮かび上がらせている。
大塚警察署の掲示板には「暴徒アリ放火略奪ヲ逞シウス。鎮圧ニ努メラレヨ」の貼り紙。ある自警団の一員は大震災から一夜明けた2日、「あっちこっちで朝鮮人が火をつけたり井戸に毒を入れたり、集団で火事場泥棒をやっているということは警察からもお達しがあるんだよ」と証言している。これを裏付けるのが下富坂警察署の警部の言葉だ。「抵抗するやつは叩っ殺しても罪には問われないから思いきりやって結構だ」。
著名人も多数登場する。映画監督の黒澤明、木下順二、小説家の井伏鱒二、大岡昇平、詩人の金子光晴、島崎藤村、漫画家の田川水泡などだ。黒澤明は当時、小石川に住んでいた。後に自伝で「朝鮮人虐殺事件は、(電気などのライフラインが断たれたなか)闇に脅えた人間を巧みに利用したデマゴーグの仕業」と喝破している。
西崎さんは中学校の元英語教師。退職後、「関東大震災時に虐殺された朝鮮人の遺骨を発掘し追悼する会」発足に参加した。現在、「一般社団法人ほうせんか」理事。証言集は東京の現代書館(03・3221・1321)から刊行。税別9000円。
(2016.9.7 民団新聞)