掲載日 : [2007-09-12] 照会数 : 8266
<11.7全国決起大会>カギは「共生事実」の実感に
[ 「永住外国人に地方参政権を」11・7全国決起大会もこの熱気で ]
民団は来る11月7日、東京・日比谷野外音楽堂で「永住外国人に地方参政権を! 11・7全国決起大会」を開催する。参加者は約5000人を予定し、国会議事堂までのデモ、各政党への陳情も行う。地方参政権に的を絞っての大規模な集会・示威は6年ぶり。民団はもちろん、日本人の市民団体や友好団体、外国人諸団体との連帯を強め、世論の掘り起こしを図る。
日本社会はこの間、ナショナリズムの高まりを誘導しつつ、立法・行政面でも国家主義的な傾向を強めてきた。外国人に対する人権意識も悪化したまま、目に見える向上はない。しかし、先の参議院議員選挙の結果、自民党が歴史的な大敗を喫し、民主党が参院第1党に躍進することで、2大政党化を軸に政治的転換期の様相があり、日本の国家戦略と絡んで外国人=人権問題にも関心が向く可能性がある。
永住外国人の地方参政権問題は、外国人に対する人権意識と密接に関わり、「開かれた国」を目指すのか、それとも「閉ざされた国」のままなのか、日本の将来の在り方をも左右する。この時期に、人権と地方参政権問題を争点として大きく浮上させ、多文化共生時代をともに築いていくべく、世論を醸成する意味は大きい。
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内閣府世論調査
改善進まぬ「外国人の人権」への意識
犯罪報道が影響
若年層には目立つ健全性
内閣府は今年6月21日から7月1日にかけて、外国人の人権問題についても考え方を問う「人権擁護に関する世論調査」を実施し、結果を8月27日に発表した。全国の20歳以上約3000人を対象に、20代から70代以上まで年代男女別に無作為抽出し、個別面接によって聴取したものだ。
まず、外国人の人権擁護に対する考え方について、どちらの意見に近いか聞いたところ、①「日本国籍を持たない人でも、日本人と同じように人権は守るべきだ」と答えた人の割合は59・3%であった。②「日本国籍を持たない人は日本人と同じ権利を持っていなくても仕方がない」は25・1%で、「どちらともいえない」は10・8%であった。
5割を超した「仕方がない」
外国人が不利益な扱いを受けることについてどう思うか、についての設問では、③「外国人に対する差別だ」との答えが31・7%、④「風習・習慣や経済状態が違うのでやむを得ない」が33・7%、⑤「日本の事情に慣れるまでトラブルがあっても仕方がない」が20・2%、「わからない」が10%であった。
この数字を前回03年2月の調査結果と比べて見よう。①については54・0%から59・3%へと5・3ポイント上向いており、外国人への人権意識は改善されたことになる。しかし、②の項目を見ると、21・8%だったものが25・1%と3・3ポイント上昇し、厳しい側面も明らかになった。
外国人が不利益な扱いを受けることについては前回調査で、③と答えたのが30・4%で、今回(31・7%)は1・3ポイントの改善である。ところが、④との答えは28・3%から5・4ポイント後退し、⑤は前回の19・8%からやや後退した。
この世論調査について、もう少し経過を見ておこう。①の「日本国籍を持たない人でも、日本人と同じように人権は守るべきだ」と答えた割合のピークは、93年調査時の68・3%だ。最低は前回03年の54・0%である。外国人が不利益な扱いを受けることについて③の「外国人に対する差別だ」と答えた割合のピークは97年の39・9%で、最低は同じく03年の30・4%であった。
悪化状態には歯止めかかる
今回の調査結果は、前回に比べれば改善傾向が見られるものの、ピーク時からすれば、悪化状態に歯止めがかかったと言える程度で、回復軌道にあるとは言えない状況にある。②と④の項目で前回より後退しているのがその証であろう。
ただ、希望的な要素がないわけではない。今回の調査で①の考えを持つ者の割合が20歳代71・9%、30歳代71・6%と、若い世代では圧倒的に高く、③についても20歳代が46・6%、30歳代37・5%、40歳代39・6%と高目を維持していることがそれだ。
人権とは本来、性別や国籍、生まれた環境、年齢、病歴、障害、思想・信条、宗教などあらゆる条件を超えて、基本的に尊重されるべき普遍的な価値である。これに対する意識に振幅があるのは本来、不可解なことと言わなければならない。
しかし、人間世界は情緒に支配されやすく、個々人は時代の空気に影響されやすい。法務省人権擁護局の担当者は03年当時、「(人権意識の啓発は)坂道のトロッコを押しているようなもので、少しでも力を抜いたり油断したら、坂道を転がり落ちていく」と語っていたことがある。「人権擁護とはそれだけ脆弱なものだ」とも。
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人権意識は「坂道のトロッコ」
油断し手を抜けばすぐころげ落ちる
地域つくる同伴者
定住者の貢献 浮き彫りを
世論あおった石原確信発言
ここで、内閣府世論調査でもっとも人権意識が低く現れた03年時までの状況について、いくつか確認しておく。
この時代の立役者は、あの石原慎太郎都知事だったと言ってよい。彼は00年4月、陸上自衛隊第一師団を前に、「不法入国した多くの三国人、外国人が非常に凶悪な犯罪を繰り返している。もし大きな災害が起こった時には大きな騒擾事件すら想定される。こういうものに対処するためには、みなさんに出動願って、災害の救助だけではなしに、治安の維持も大きな目標として遂行していただきたい」と呼びかけた。
これは、口を滑らせたものでも、冗談でもなかった。石原知事は実際に同年9月3日、「防災訓練」の名のもとに東京上空に軍用ヘリコプターを舞わせ、東京湾には自衛艦を浮かべ、銀座には装甲車を走らせたのである。
外国人を公然と敵視する石原都知事の言動は、中国・北韓や「三国人」を念頭に、「撹乱・騒擾を狙う外国もしくは外国人」に対し、「やるときはやる」との断固たる姿勢を示す威嚇行為であるかのような、甘い次元で論じられるものではなかった。
これは明らかに、旧ユーゴスラビア諸国など世界各地で新たな民族紛争を煽った、特定目的のために民族・宗教など同一性を求心力に利用しようとする政治手法、アイデンティティー・ポリティクスの典型だ。
ところが、クーデターの予行演習のつもりかとも皮肉られたこのパフォーマンスは、大きな社会的な批判を受けることも、石原知事の人気にかげりが見えぬこともなかった。むしろその後も、外国人による凶悪犯罪の急増報道や02年の北韓による日本人拉致事件の公然化などを材料に、日本が内と外から侵されているとのすり込みが深化し、石原知事やその確信的な支持層を勢いづかせてきた。
外国人を拒む雰囲気つくる
97年の調査から、人権意識が最低値を記録した03年までの5年間に、そうなるべくしてなるような空気が日本社会に醸成されていたのである。前出の人権擁護局の担当者は03年の最低値について、「日本人が外国人を身近に見る機会が増え、外国人犯罪の報道が多くなった影響は大きい」と指摘していた。
03年の上半期における全国警察の来日外国人犯罪の摘発件数は、前年同期比で20・5%増の1万8579件で、摘発人数は19・8%増の9084人。摘発件数の国籍別比率は中国人40・1%、韓国人6・6%(9月4日、警察庁まとめ)‐実際、このようなニュースがマスコミをしばしばにぎわせていた。
現在、東京の留置場収容者の約3割が外国人だという。外国人犯罪者の来日目的は「金を儲ける」が最も多い。正規旅券で入国した者でもブローカーに数百万円を支払っている場合が多く、その借金を返せないがゆえに不法滞在を続け、犯罪に走るというのが一般的だ。
人権と共生は不可分の関係
外国人犯罪者はなぜ生まれるのか、統計数値が語らない事情に思いをめぐらさなければ、必要以上に外国人を拒む空気が造成されやすい。まして、一時的な来日外国人と、地域社会との協調なしには生活しづらい永住・定住外国人との決定的な違いを理解しなければ、当の永住・定住外国人はもちろん、日本人にとっても大きな損失・不幸と言わねばならない。
なぜならば、一時的な来日外国人の犯罪率推移がそのまますべての外国人への視線に反映され、永住・定住外国人の人権や生活を脅かすことがまずひとつ。もうひとつは、地域社会においてすでに重要な欠かせない存在になっている永住・定住外国人と、日本人との関係を非生産的なものに変質させるからだ。
内閣府の今年の人権世論調査で、人権課題の解決に向けて国はどのようなことに力を入れるべきかの設問に対し、「学校内外の人権教育を充実する」(55・4%)、「国や地方自治体、民間団体等の関係機関が連携を図り、一体的な教育・啓発広報活動を推進する」(46・4%)、「人権が侵害された被害者の救済・支援を充実する」(46・0%)、「犯罪の取り締まりを強化する」(41・1%)が多くを占めた(複数回答)。
人権意識と共生意識は表裏一体の関係にある。このいずれの方策も、社会的な弱者として人権を脅かされやすい半面、地域社会で多文化共生を推進する定住外国人の存在と深い関わりを持つ。外国人の人権尊重問題で、先駆的な役割を果たしてきた在日同胞にとって、今後とも身を持っての啓発努力は欠かせない。
法務省立案の人権擁護法案が、翌年の衆院解散によって廃案となった経緯がある。
地方参政権も重要な要素に
この法案は、報道機関による人権侵害を重点にしたことから、批判的に受け止められた。だが、あらゆる人権侵害に対して、効果的な救済措置と罰則規定を盛り込んだ法律制定は真剣に考えられるべきであろう。人権意識をより高い次元に引き上げるだけでなく、低下を防ぐ突い棒が必要である。
しかし、より重要で効果的なのは、永住・定住外国人と地域社会との関係性を見えやすくし、地域の欠かせない存在である実態を立法・行政システムに反映させることだ。
そこでは永住外国人の地方参政権の確立が重要な柱になるのは言うまでもない。地域社会に貢献し、地域社会をともにつくっていく永住・定住外国人の存在を浮き彫りにし、その人権が尊重される空気、仕組みをつくることで、外国人一般はもちろん社会的弱者の人権を守る意識を堅固にする効果も期待できる。
(2007.9.12 民団新聞)