掲載日 : [2007-09-12] 照会数 : 9759
在日2世の「差別発言」提訴 初の和解も後遺症重く
中傷電話・メールに悩む…訴訟支援の会社
【大阪】大手住宅メーカー、積水ハウス(大阪市北区)に本名で勤務する在日2世、徐文平さん(46)が勤務中、大阪府内の顧客から差別的な発言をされ、慰謝料300万円と謝罪広告の掲載を求めていた訴訟は8月31日、大阪地裁(平林慶一裁判長)で和解が成立した。しかし、徐さんが入社時から携わってきた元のアフターメンテナンス業務への復帰のメドはまだたっていない。
元職復帰の時期示せず
差別発言事象で和解が成立したのはこれが初めてという。訴訟の費用などは「従業員を守るのが企業」と、会社側が支援した。和解内容は、被告が本名の名刺をきっかけに原告の名誉感情を害した行為に対する謝罪と、原告への解決金30万円の支払い。和解を受け入れようとしない被告を裁判官自ら説得した。
裁判が始まって間もなく、まったく慣れない内勤職に配置転換されていた徐さんは、和解を受けて会社側に元職復帰を願い出た。会社側も、内勤は裁判が終了するまでと言っていたからだ。しかし、結論は出ていない。
徐さんは「もし内勤のままだったら、裁判してわざわざ負の前例を作っただけ。本名の朝鮮人かなんわ、もう外に出すな、中で仕事さそ、ほんなら安心やとしか思えません」と胸の内を語る。
一方、会社側は、提訴後の嫌がらせ電話やメール攻勢、右翼による街宣行動に辟易している様子がうかがえる。徐さんも会社の前で「顧客に朝鮮文字の名刺を出し、その非礼を……」と記されたビラを確認しているという。
当初、訴訟に消極的だった徐さんを、提訴を支援するからと勧めたのは会社側だった。同社ホームページを見ると、80年代から「人権問題」に社をあげて取り組んできた様子がうかがえる。こうした全社的な取り組みは同年、部落差別図書「地名総鑑」を同社が買っていたことが発覚したことがきっかけとされる。
会社側の対応については「差別意識が存在するからといって、徐さんを本来の職場、あるいは顧客と接する職場から排除するということは、日本社会に存在する差別意識を肯定することにつながりかねない。逆に企業のイメージが下がります」という声も出ている。
これからも本名で
徐さんは「差別発言のみで裁判を起こしたのは私が初めてらしいです。ここまで精神的肉体的にまいるとは思いもしませんでした。元の職場に戻って初めていい意味、いい形で終わります。私の望みは、これからも本名で普通に生きていくことです」と話している。
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事件の経緯
05年2月、徐さんはマンションの配水管詰まりの緊急工事報告書と今後の改修工事の見積書を持ってマンションオーナーの被告男性方を訪問した。徐さんの名刺にはハングルと漢字、カタカナの読み仮名が入っていた。
名刺を見た男性は「積水ハウスという看板とこの名前を一緒に載せるとはけんかを売っているのか」「ようこれで商売するな」など2時間、差別的発言を続けたという。
男性は「読み仮名が見えず、『じょさん』とお呼びしたら『違う』と言われて、何を言っているのか分からなかった。改修工事も金額が法外だったので断ると言っても、聞き入れてもらえなかった」と釈明している。
徐さんは周りに迷惑をかけず、本人との話し合いですます予定だった。だが、電話をしても本人は出なかった。
一方、会社側は「徐さんに非はなく、勝訴できる」と提訴を勧めた。
(2007.9.12 民団新聞)