掲載日 : [2004-06-30] 照会数 : 4824
韓流から在日ウェーブへ 「東京湾景」来週5日にスタート
[ 連続TVドラマ「東京湾景」の製作発表(20日、都内ホテル) ]
韓国映画「シュリ」のヒットで火がつき、テレビドラマ「冬のソナタ」で頂点に達した観のある韓流は、今や日本の一つの社会現象と言っても過言ではない。「冬ソナ」の主役、ぺ・ヨンジュンの来日時には、空港到着から滞在先まで女性ファンが押しかけ、新聞、雑誌、テレビの取材攻勢がその熱狂ぶりに拍車をかけた。時の人となったぺ・ヨンジュンは、日本で写真集を発刊し、CMにまで進出した。
「隔世の感あり」というのが、在日1、2世の心情だろう。1945年の解放以降の歴史を見ても、韓国の政治、経済、社会分野ではなく、文化関連のソフトな分野にこれほどまで日本人が関心を寄せたことはなかったからである。とは言え、「空前絶後」の韓流もいつかは終わる。その後に反動があるとしても、庶民レベルでの韓日相互理解を一段押し上げた事実は揺らぐまい。
一方、韓流との接点はなかったが、在日にもヒーローはいた。敗戦後の鬱屈(うっくつ)とした日本人の気分を一気に爽快にしたのは、ガイジンレスラーを空手チョップ一つでなぎ倒す力道山であったし、国民スポーツの代名詞、プロ野球で400勝をあげた金田正一や3000本安打を達成した張本勲は、英雄という名前に値する傑物だった。
彼らはまぎれもない在日だった。しかし、そのことを知っていたのは在日と一部の日本人だけで、公表されることはなかった。在日が華やかな表舞台でスポットを浴びるのを許容するほど日本社会は開かれてはいなかったし、当の在日ヒーローも浮かんでは消える実力社会のなかで、日本人ではない自らの出自を明かすことは、リスクが大きすぎたからである。悲しいかな「出る杭は打たれる」し、「寄らば大樹の陰」が処世術だった。
ところが、ソウル五輪や韓日共催のサッカーワールドカップが成功し、韓国の国力も世界的に認知された現在、韓流の追い風も受けて在日を包む風向きが変わり始めている。人気稼業の芸能人がカミングアウトする例も決して珍しくはなくなった。それは、在日であることを素直に表に出していこうという機運が、徐々にではあるが芽生えてきたことの表れである。隠さずにあるがままの在日を出して生きたいという封印されてきた思いが、今まさに解き放たれようとしているかのようだ。
在日を主人公にした初の連続ドラマ「東京湾景」が、月曜9時、全国ネットで始まる。若い世代が「ゲツク」と略すほど定着した時間帯に、在日の生き様、葛藤が表現される時代になった。繰り返すが、隔世の感ありである。
日本に対する積年の悪しき感情を1、2世世代は払拭できないかもしれない。しかし、少なくとも3、4世が疎外感を味わうことのないように、このドラマの素材をも活用しながらあらためて在日であることを発信できればと思う。日本人の在日食わず嫌いと、在日側の日本(人)疑心の非生産的な関係にピリオドを打つ契機にしたいものだ。
(2004.6.23 民団新聞)