掲載日 : [2004-06-30] 照会数 : 6524
在日がヒロインのラブストーリー「東京湾景」(04.6.30)
[ 在日と日本人のラブストーリーを描いた「東京湾景」 ] [ 妹「紀香」役のソニン(右)と姉「美香」役の仲間由紀恵 ]
深まる韓日交流、「在日」理解に拍車
在日韓国人がヒロインの恋愛物語「東京湾景」が7月5日の夜9時、フジテレビ系列でスタートする。原作は芥川賞作家、吉田修一の同名小説。原作にはない在日を登場させ、主人公に設定した連続ドラマは、テレビ初の試みだ。主題歌、挿入歌、音楽も韓国人アーティストを起用、ここにも韓流の影響が出ている。また、番組のプロデューサーがシナリオを書くというのも前代未聞で、話題に事欠かない。主演の仲間由紀恵(木本美香=李美香役)と妹役(紀香)のソニンに話を聞いた。
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プロデューサーの栗原美和子
自身の体験を脚本に
今回、私はプロデューサーでありながら脚本を執筆するという、連続ドラマ史上初めての大胆な試みに挑んでいます。
もともと文章を書くことが大好きで、いつかは執筆業にも就きたいと考えてはいました。この番組が実現に至ったのは、やはり、テーマが在日韓国人と日本人の国境を越えた恋愛だからだと思います。
というのは、私がちょうどヒロインの美香の年齢だった頃に、在日韓国人3世の男性と恋をしていました。その時に肌で感じていたことを映像化するわけですから、経験者である私が脚本を書くのがベストだというわけです。
彼と二人で海外旅行に行った時、パスポートの色が違うことであらためて国籍の違いを実感したこととか、今でも胸に深く残っている想いを表現しているつもりです。
長年温めてきた企画をようやく実現することができるのは、ここ数年で急激に日韓の交流が深まってきたからだと嬉しく感じています。
プロデューサーと脚本家、二足のわらじを履くことのメリット、デメリットをよく尋たずねられますが、今のところデメリットは感じていません。最大のメリットは、キャスティングしている張本人なので、すべてのキャストに、つまり全登場人物に深い愛情を抱いて本を書いているということではないでしょうか。
今日現在、2・3話を収録中で、台本は8話まで進んでいます。片時も目が離せない展開になっていきますので、楽しみにしていて下さい。
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姉妹役に聞く
妹「紀香」役のソニン
現代を生きる「在日」像〞地〟で表現したい
美香の妹、紀香役を演じる。ドラマ3本目にして初の姉妹役だ。姉の恋愛の行方をハラハラ、ドキドキしながら見守る明るくノーテンキな大学生という設定だが、自身も在日3世で、役柄と同じ年ごろ。「特に役づくりをする必要はないし、地が出せればいい」と話す。
在日に生まれたことを誇りに思っている。出自を隠さずにソニンという名前で芸能界デビューを果たしたのは、本人にしてみれば特別なことではなかった。あるがままの在日が受け入れられる時代の到来も感じていた。 歌手からスタートし、グラビア、ドラマ、映画にと、様々なジャンルにチャレンジしている。そこへ韓流の大きな波がやってきた。「在日のソニンさんにレポーター役を」というNHKの申し出に、「自分にしかできない仕事」と意気に感じ、東京・新宿のコリアショップでK―POPの紹介をした。その音楽の水準の高さに驚き、韓国への関心があらためて芽生えた。
そして、今回の連続ドラマ。在日が表舞台に出たことに、2世の両親も手放しで喜んでいるという。「このドラマがきっかけで韓日がもっと仲良くなればいい。主なテーマは恋愛だが、現代を生きる在日が描かれているし、多くの人が共感できると思う」。
韓国、日本、そして在日。国籍が違うということにこだわることなく、一人の人間としてどう生きるのか、ということが大事だというソニン。「冬のソナタ」がブレイクしたように、「東京湾景」が韓国から注目され、オファーが来れば、と笑った。
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姉「美香」役の仲間由紀恵
2世と3世との葛藤リアルに演じたい
主人公の美香と回想シーンでの母親役の二役をこなす。ラブストーリーには縁がなく、「月9」に主演するのは初めて。主役に抜擢された当初は緊張したという。
気遣ったのは役づくり。在日韓国人についてそれまで知らなかったが、歴史的な背景の勉強から始め、本や資料にも目を通した。同じ人間なのに差別を受けたということにショックを受ける一方、みんながみんな在日であることを強く自覚しているわけでないこともわかった。
美香も厳格な2世の家庭に育ってはいるが、今を生きる日本人女性同様に職場でもバリバリ仕事をするし、平等に意見を言える強さも持つ現代女性だ。そういうキャラクターに親近感を覚える。プレッシャーは、想像の世界でしかない2世の親と3世の娘との葛藤や対立をどのように演じるかだ。一口に3世といっても、それぞれ家庭環境も事情も違うが、「できるだけリアルに演じたい」と意欲を示す。
第1話ではチマチョゴリ姿も披露する。初めて袖を通したが、かわいらしい衣装だと気に入った。訪れたことはないが、韓国は「食べ物がおいしそうだ」というイメージを持っている。
また、映画「シュリ」や「冬のソナタ」を通じて、両国の文化の違いはあっても、人が人と出会い、人を好きになるという本能的な気持には変わりがないということをあらためて思った。
在日との恋愛の可能性については「素敵な人なら構わない」と笑顔。「誰もが切なくなるようなラブストーリーをお届けしたい」と締めくくった。
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あらすじ
東京・台場の一流出版社に勤めるOL、木本美香(仲間由紀恵、写真左)は、美人で学歴もあり、仕事もできる在日3世だ。日本人との結婚を父親に猛反対され、恋人からも距離を置かれた傷心の美香は、出会い系サイトに「本当の私を見つけてくれますか…?涼子」とメールを送る。受けとったのは品川埠頭の倉庫で働く貧乏青年(和田聡宏、同左)だった。運命の糸に引かれるように二人は出会い、そして恋に落ちていく。
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主題歌は〞韓流〟から…「君さえいれば」など3曲
主題歌には韓国人アーティスト「Weather Forecast」(現在は解散)の「君さえいれば」を使用。挿入歌にも映画「クラシック(邦題・ラブストーリー)」挿入歌で一躍有名になった3人組「チャジョンコタンプンギョン(自転車に乗った風景)」の楽曲を用いる。また、劇中の音楽を作曲するのは「冬のソナタ」のBGMで韓国に一大ピアノインストゥルメンタルブームを巻き起こしたピアニスト・YIRUMA(イルマ)。
韓国のアーティスト3組を起用した理由について、フジテレビは「ドラマだけでなく、音楽にも韓流が浸透するはず」と説明した。
(2004.6.30 民団新聞)