東日本大震災の被災者を少しでも励まそうと、民団は炊き出しを行ってきた。振る舞ったのは、韓国料理が中心だ。寒さや慣れない環境で、長期の避難所生活を余儀なくされた被災者たち。疲労はたまり、栄養の偏りから体調を崩しがちになる。このようなとき、威力を発揮するのが韓国料理だ。ビタミンやタンパク質などが豊富なうえに滋養もつく。7日に宮城県石巻市の避難所の門脇中学校で、炊き出しを行った民団韓食ネット協議会副会長、オフィス東京代表取締役などを務める崔誠恩さん(52)に聞いた。
◆優れた栄養バランス…非常時こそ効能見直そう
寒さ、疲労、ストレス、気力低下、風邪…。現在、避難所生活を送る人たちが抱えている症状だ。集団生活によって疲労やストレスが重なり、支援物資に頼る食事で栄養が偏り、体調を崩す人たちは多い。
「韓国料理は五味五色の考えによって作られ、栄養バランスも良く、弱った体の人には力を与える」
◆コムタンには具をたっぷり
7日の炊き出しでコムタンスープとキムチを準備した。韓国では体が弱ったときコムタンをよく食する。牛の尾には鉄分、ゼラチン、フラボンが多量に含まれている。「煮込むことで高タンパク質になり、体に吸収しやすく力の源になる」。疲労回復や滋養をつける栄養価の高いスタミナスープだ。
本来、コムタンには大根やネギ、ショウガ、ニンニクなどを使用する。崔さんは被災者の心身の状態を考慮した。避難所では支援物資に頼るしかない。野菜は不足している。
崔さんが今回考えたのは具だくさんのコムタンだ。大根は消化を助ける働きがある。
普通、大根は薄切りにするが、大きめに切って形を残した。「歯ごたえを残せば、食べた人が幸せを感じるから」。そして大根だけでは色が寂しいからと、消化不良や食欲不振に効果があるニンジンと、体を温めるニラを入れた。
崔さんはスープを煮込みながら浮いた脂を丹念にすくい取り、肉についた脂も全て切り落とした。これは、「胃の働きが弱っている人が脂を食べると下痢をしやすい」という配慮。
◆疲労回復にはキムチが味方
そしてキムチは、「乳酸菌が多く、いろいろな野菜を使うから繊維質も摂れる。ビタミンも豊富でアミノ酸も含まれる。疲れたときに役に立つ」。
今回は高麗人参茶も用意された。人参茶は滋養強壮に優れ、消化不良や下痢などを改善する作用がある。ビタミンやミネラルも多く含まれるので、栄養の偏りから体調を崩している人たちにとっては心強い味方と言える。
避難所で支給されるパンやおにぎりで、基本の炭水化物は摂れるが、これはあくまで空腹をしのぐためのもの。いろいろな栄養素が補給されないと体のトラブルが起こる。
民団は、これまでユッケジャンやトック、チヂミ、ゆず茶なども振る舞った。
トックは、うるち米を使った韓国の餅。主成分はでんぷんで、消化のいい栄養素が含まれる。スープは鶏肉や牛肉でダシをとる。米粉のトックと温かいスープを一緒に食べることで消化と吸収率も良くなり、カロリーも摂取できる。
◆おだやかさと精神安定にも
被災者は心身ともに弱っている。トックはのどごしがよく、温かいので気持ちもおだやかになる。被災者たちにとってこのような食べものは、生命を維持するだけではなく、精神的な安定を得ることにもつながる。
一皿一皿のなかに、ビタミンやタンパク質などが豊富につまった韓国料理。非常時の食事の栄養面で強力なサポートをしてくれるはずだ。
■□崔誠恩(チェ・ソンウン)…1959年ソウル市出身。朝鮮王朝の宮中料理を担当した祖母の影響を受け、伝統韓国料理を学ぶ。82年ソウル大学校農科大学卒業。85年渡日。現在、株式会社オフィス東京代表取締役、有限会社崔さんのキムチ代表。韓国料理研究家、また伝統のキムチ文化を日本に伝えるとともに、在日本キムチ文化研究所所長として各地で講師として活動。民団韓食ネット協議会副会長。
(2011.4.15 民団新聞)