クラシックギター界の第一線で活躍している朴葵姫さん(29)は、その卓越した技術と豊かな音楽性で聴衆を魅了し続けている。ヨーロッパ、日本、韓国などで演奏活動を行うなか、昨年9月に東京・渋谷区で開催された「在日大学生ジャンボリー2014」のコンサートに参加、同胞の学生たちと交流する貴重な経験をした。オーストリアのウィーン国立音楽大学での留学を終え、この6月に帰日、プロ一本の生活が始まる。
ウィーン留学終え日本で本格活動へ
ウィーン国立音楽大学は世界中から優秀な人たちが集まることで知られる。朴さんは、クラシックギターの巨匠、アルヴァロ・ピエッリ氏に師事した。4年前からプロ活動を始めた朴さんだが、学業との両立は苦労が絶えなかったと話す。
学校側の方針は学業優先。でも、日本でコンサートがあるときは授業を欠席せざるを得ない。「その旨を伝えても『それはあなたの事情』と特別視しない」
「単位を取るのが大変だった。1単位落とすと授業は受けられない。1つクリアしたら、次の学期にはまた違うものが問題になる」。結局、2年半留年し「去年やっと卒業できました」と顔をほころばせた。
朴さんは韓国仁川生まれ。1歳から5歳まで、そして15歳から日本で暮らす。初めてギターに触ったのは3歳。母親が趣味で習っていたギター教室でだった。
高校生のとき、クラシックギターの専門誌で知ったギター教室に入った。講師を務めていた在日同胞のギタリスト、金庸太さんから留学直前まで教わった。「今でも日本ではいちばんの応援者です」
04年、東京音楽大学に入学。1年のときヨーロッパで開かれたギターフェスティバルに参加、恵まれた音楽環境に惚れ込み、留学を決意した。東京音大を退学し、06年9月ウィーンに渡った。ギターに関しては「決めたら今すぐという感じになってしまう」と笑う。
留学当初は「言葉が通じなくて、寂しかった」。やり場のない気持ちを救ったのはギターの練習だ。「ひたすら弾いていると他のことは考えなくなる」
朴さんは07年のドイツ・ハインツベルグ国際ギターコンクール第1位をはじめ、主要コンクールで優勝を重ねてきた。世界最高峰の一つ、スペイン・アルハンブラ国際ギターコンクール(12年)では第1位及び聴衆賞に輝いた。
日本では10年7月、デビューCD「Sueno スエーニョ〜夢」(フォンテック)を発売。12年、日本コロムビアから「スペインの旅」でメジャーデビュー。カーネギーホール(ワイルホール)で米国デビューを果たした。
朴さんの奏でる美しく滑らかなトレモロは「天使のトレモロ」と評される。プロでも「苦手だという人は多い」というこの奏法を、小学校2年のとき身につけた。豊かな表現力は天賦の才なのだろう。
14年9月、「在日大学生ジャンボリー2014」に参加した学生は138人。大勢の同胞学生を前に演奏したのは初めての経験だった。演奏以外にもギターテクニックを披露するなど、楽しい一時を過ごした。
6月、日本に拠点を移す。今わくわくしているのは、9月に予定している初のギターカルテットによる演奏だ。「大好きなギター仲間4人で組むので楽しみです。オーケストラの曲を弾くとか、そういうことにも挑戦したい」と声が弾む。
朴さんは「私は聴衆がいて初めて存在できます。その方たちにまた聴きたい、あの時の感動をまた味わいたい、と思ってもらえるような演奏者になるのが目標」と声に力を入れた。
(2015.2.25 民団新聞)