<寄稿>韓国の詩人 高貞愛さん
25カ国結集の一大イベント
いつの間にか21年が過ぎた。
2000年11月3日から3日間、日本の詩誌『地球』創刊50周年を記念する「世界詩人祭、東京」という行事が開催された。世界25カ国から100人を超える海外詩人と、日本の詩人たち280人、それに短歌・俳句を詠む方たちまで、総勢1800人以上が参加した。
韓国詩人の集まり「文学アカデミー」で日本語訳を担当していた私は、詩人35人の詩、70編余りが収録されたアンソロジー『韓国詩35人選』を持って参席していた。
会場で私たちの趣旨を伝えたところ、有料なのかと聞かれた。違う、プレゼントだと言うと、目を輝かせ、自分の机に飾ると言ってくれた。その方が私たちの詩集を配ってくれるたびに、日本の詩人たちはびっくりし、あの沢山の詩集が行き先を得たのだった。
その後、日本の公明新聞2000年11月17日付に、交流行事主催者である秋谷豊さんのコメントとともに、私たちの詞華集の紹介記事が掲載された。
「韓国の詩人団は、この世界詩人祭のために編集・刊行した『韓国詩35人選』(ソウル、文学アカデミー刊)を持参した。韓国語と日本語に対訳された、韓国現代詩の若い詩人、中堅詩人たちのアンソロジーである。訳者は高貞愛氏」
また、日本の詩誌『詩と思想』で、森田進という日本の詩人は次のように述べた。
「韓国の文学アカデミーの詞華集『韓国詩35人選』という、見逃せない韓日対訳アンソロジーがある。金光林が跋文を書いた。同人団体の日本語訳アンソロジーが編まれるのは初めてのことだから、日韓両国の詩作交流に積極性を帯びさせる呼び水の役割を期待する。高貞愛が翻訳している。日本人はこのアンソロジーにどう反応するだろうか。これは韓国モダニズムの知的抒情派詩人たちの文明批評的アンソロジーだ」
日本の詩文学界の旗手、佐川亜紀さんは、『韓国詩35人選』を終わりまでしっかり読みこんだようで、細かな点にまで関心を表明した。彼女は、文学アカデミーの意欲的なホームページ運営に対しても、感嘆すると述べていた。
飯嶋武太郎さん最初の出会いは
交流会場で偶然に、崔勝範さんの紹介で、千葉市に住む獣医師で詩人の飯嶋武太郎さんに会った。飯嶋さんは、韓国語学習を始めて6年、日本人として韓国の詩と随筆の日本語翻訳はとても難しいはずなのに、毎月、韓日文学交流誌『むくげ通信』を発行していた。そして、数多くの韓国詩と随筆の日本語翻訳を掲載した120部の『むくげ通信』を制作し、日本ばかりでなく韓国や台湾にまで配布した。有難いことだった。
2001年から毎月、飯嶋さんの自費での困難な作業に、私はその通信を受け取るとすぐに収録された詩人たちと随筆家たちが直接読むようにと、複写して再送付した。その『むくげ通信』は今でも大切にしまってある。
韓国を愛し、韓国の文学、中でも水準の高い韓国の詩文学を紹介しようとの一念で、個人誌を38号まで制作し配布した飯嶋武太郎さん。玄界灘を越え、国は違っても文章を外国語に翻訳するという立場は私と共通していたから、互いに交わす話もたっぷりあった。
8回目の訪韓にも関わらず、それまでゆったりとソウルを回る機会のなかった飯嶋さんを、10月6日の午後に仁寺洞で会い、ソウル市内を見て回ることになった。ソウルの土地っ子である随筆家の呉景子さんと3人で、昼と夜のソウル・シティーツアー・バスに乗って見て回った。
韓日現代詩祭ソウルに32人
そうしているうちに、2008年7月22日午後6時、旧王宮である秘苑の横の北村劇場で、[韓日現代詩祭]が開かれた。文学アカデミー代表・朴堤千さんの企画演出のもと、日本詩人12人、韓国詩人20人が集まって親睦を深めたのだった。
前年の2007年、朴堤千・編集、高貞愛・翻訳で出版された『日本語訳105人韓国詩人選』が国際ペンクラブ韓国支部の翻訳文学賞を受賞していた。
2009年の秋には、飯嶋さんが秋田高敏さん、小島秋水さんとともに来韓し、私はソウルの清渓川を案内した。鐘路3街から光化門へと川辺をたどりながら、都心を貫通する風変わりな感じが楽しかったのか、3人は感嘆の声をあげた。私は、このように散策と観光にふさわしい、まして外国のお客さんの興味を誘うコースがソウルにあることを、とても素晴らしいことだと思った。
朝鮮の歴史に誇りを感じた
言葉も習慣も違うこの方たちと出会った歳月はもう10年。いろいろな会話を交わしながら歩いているうちに、思いがけない情景に出会うことになった。清渓川の長通橋から三一橋の間に、正祖行幸図の人物像などを陶器で再現したものだった。いんいんたる雅楽まで聞くことができた。散策の終着地である光化門では、朝鮮の歴史上に最も優れた儒教文化を燦爛と花開かせた聖君、第4代世宗大王の新しい金銅の像を誇らしく感じたものだった。
日本語訳も韓訳も着実に増えて
2000年から今日まで、詩人たちが上梓する詩集には英訳とともに日本語訳が載せられることが多くなった。私は、文学アカデミー社の季刊誌『文学と創作』で継続して日本語訳を付けてきたが、その数を数えることができないまでになっている。
そうした記録を生かして、私は原著者たちのためにネイバーのブログを運営し、写真とともに載せている。請われて文学誌に載った日本詩人の写真と韓国語訳はもちろんのこと、金子みすず、新川和江、谷川俊太郎、石井逸子、茨木のり子、工藤直子、柴田とよ、菊田守などの韓訳詩も載せておいた。
私の健康が許す限り、これからもこの作業は続けられるだろう。
高貞愛
<詩集>『日ごとに顧みる奇跡』ほか多数。
<日本語訳>『105人、韓国詩人選』『韓国詩35人選』、朴堤千選詩集『荘子詩』ほか多数。
<日本語共訳>金南祚選詩集『神のランプ』、金南祚小品集『美しき人々』。
<韓国語訳>姜尚中『在日姜尚中』、樋口康行『変人力』。
<受賞>国際ペンクラブ翻訳文学賞、詩人の選ぶ詩人賞、バウム文学賞。
韓国文人協会、韓国詩人協会、文学アカデミー、ペンクラブ韓国会員。
(2021.10.27 民団新聞)