掲載日 : [2021-11-10] 照会数 : 3079
【新刊紹介】「二つの国二つの文化を生きる」…自らの民族性を生きる力に
在日韓国人2世の医師がいかに生きてきたか、自らの半生を愚直に語る。逆に言えば、在日はかく生きるべきだと示した次世代へのメッセージともいえよう。
1982年、茨城県美野里町(現在は小美玉市)にベッド数19床の小さな診療所を開設。それからは特養ホーム、ケアハウス、老人保健施設、グループホーム、認可保育園と次々と事業体を拡大し、14年には念願の中高一貫校まで創立した。
この原動力となったのは「多くの人の役に立ちたい」という地域社会への奉仕精神だったという。しかし、そればかりではなさそうだ。著者は「私は自分のルーツと出自を全面に出して生きてきた。それはそれで苦労もあったが、それを貫けば、日本の人たちもこういう人間だと、かえって理解してくれた」と述懐している。
ある国会議員から「金先生は日本の国籍を持っているんでしょう」と問いかけられると、「持っていないですよ、先生。私、日本国籍を持ったらこんなに働く力は出ないですよ」と答えたのは象徴的なエピソードといえそうだ。
青森の朝鮮人長屋育ち。両親は水飴と養豚、密造酒づくりから始まり、密造酒が売れなくなると焼肉店を開業して兄弟4人を最高学府まで進ませた。
著者は北大医学部に進学。入学と同時に「朝鮮語」を独学で学び、「日本人に負けないしっかりした実力」と「自分の民族性と主体性の確立」を人生の両輪としてきた。自ら創立した中高一貫校でも「朝鮮人韓国人としての主体性を失わずに誇りをもって生きること、そういう精神を持った次世代を育てたい」と話している。
税別1800円。講談社ビーシ‐(03・3943・6559)
(2021.11.10 民団新聞)